リスクアセスメントシートの記入例
🏗️ 建設業|足場組立作業の例
作業名:足場組立作業
危険性・有害性:足場材を持ち上げる際にバランスを崩し、墜落する
既存の対策:フルハーネス型安全帯の着用
重篤度:10(致命的)
発生可能性:2(中程度)
リスクポイント:20 最優先
追加対策:親綱の先行設置、昇降設備の使用徹底
対策後リスク:10 高
残留リスク対策:毎日のKY活動での確認、定期的な安全教育
🏭 製造業|プレス作業の例
作業名:プレス機による金属加工
危険性・有害性:金型に手を入れた状態でプレスが作動し、手を挟まれる
既存の対策:両手操作式安全装置
重篤度:10(致命的)
発生可能性:1(低い)
リスクポイント:10 高
追加対策:光線式安全装置の追加設置、インターロックの導入
対策後リスク:3 低
残留リスク対策:安全装置の始業前点検、作業手順の教育
よくある間違いと対策
間違い1:危険性の特定が抽象的
❌ 悪い例:「高所作業で危険」
✅ 良い例:「足場2段目で配管取付け作業中、足場板の隙間から工具を落とし、下の作業者に当たる」
具体的に、どこで・何をしているときに・何が起きるかを記載します。
間違い2:リスク評価が主観的
「なんとなく危なそうだから10点」ではなく、基準表に沿って客観的に評価します。評価基準は事前にチーム内で統一しておきましょう。
間違い3:対策が「注意する」で終わっている
❌ 悪い例:「高所作業時は注意する」
✅ 良い例:「親綱を先行設置し、安全帯のフックを常時掛けた状態で作業する」
具体的な行動レベルで記載します。
間違い4:作成後に見直さない
リスクアセスメントは作成して終わりではありません。作業条件の変化や新たなヒヤリハットに応じて、定期的に見直すことが重要です。
実施体制の作り方
1. 経営者によるコミットメント
まず、社長や工場長などのトップが、リスクアセスメント実施を表明します。安全管理方針に組み込み、全社的な取り組みであることを明確にします。
2. 推進チームの編成
- リーダー:安全管理者または現場責任者
- メンバー:各部門・工程の代表者、作業者代表
- 必要に応じて:安全衛生委員会、外部専門家
3. 教育・訓練の実施
メンバー全員が、リスクアセスメントの目的と手法を理解していることが重要です。初回実施前に勉強会を開催することをおすすめします。
業種別リスクアセスメントの違い:建設業 vs 製造業
リスクアセスメントは法律上は共通の枠組みだが、実際の実施方法・評価の観点・書式は建設業と製造業で大きく異なる。自社の業種に合ったアプローチを理解しておくことが重要だ。
| 比較項目 |
建設業 |
製造業 |
| 実施タイミング |
工事着工前・工程変更時・天候変化時 |
新製品導入時・設備変更時・年次定期 |
| 評価対象 |
作業ごとに変化(高所・掘削・重機等) |
設備・ライン単位で固定的 |
| 主なリスク |
墜落・落下・挟まれ・崩壊 |
機械への巻き込み・化学物質・爆発 |
| 評価メンバー |
現場監督・職長・安全管理者 |
生産技術・品質管理・設備保全・安全担当 |
| 記録保存 |
工事完了後3年以上推奨 |
設備廃棄まで保存が望ましい |
| 特有の規制 |
足場・クレーン等の設置届出と連動 |
化学物質リスクアセスメント(2016年に義務化、2024年から自律的な管理へ移行) |
建設業のリスクアセスメントの特徴
建設業では作業内容が日々変わるため、工程ごとの動的なリスクアセスメントが必要だ。特に以下の3点が製造業と異なる。
- 天候・環境変化への対応:雨天・強風・夏の熱中症リスク等を作業前に評価する「当日版リスクアセスメント」の実施が効果的
- 混在作業のリスク:複数の業者が同じ現場で作業する場合、相互の作業が干渉するリスクを元請が統括して評価する義務がある
- 仮設物のリスク:足場・仮囲い・仮設電気等は本設設備と異なり、設置・解体も含めてリスク評価が必要
製造業のリスクアセスメントの特徴
製造業では設備・機械が固定的なため、より体系的で詳細なリスクアセスメントが可能だ。
- 機械安全の国際規格対応:ISO 12100やJIS B 9700に基づくリスクアセスメントが求められる場面がある
- 化学物質リスクアセスメントの義務化:2024年4月以降、危険性・有害性のある化学物質を製造・取り扱う場合はリスクアセスメントが義務(努力義務から格上げ)
- FMEAとの連携:設計段階ではFMEA(故障モード影響解析)で予防的評価を行い、製造段階でリスクアセスメントに引き継ぐ企業が増えている
関連記事:リスク低減措置の選び方と具体例|優先度の決め方ガイド、リスクアセスメントシートの記入例集|建設業・製造業対応
業種別のリスクアセスメント記入例(6例)
上の記入例と同じ評価基準(重篤度10・6・3・1 × 発生可能性4・2・1)で、業種別の例を6つ示す。点数は一例で、実際には自社の現場の状況に合わせて評価する。
| 業種 | 作業 | 危険性・有害性 | 既存の対策 | 対策前(重篤度×可能性) | 追加対策 | 対策後 |
| 建設業 | 掘削作業 | 掘削面が崩壊し、作業者が土砂に埋まる | 掘削面の目視確認 |
10×2=20(最優先) |
土止め支保工の設置、掘削面の勾配の確保、地山の掘削作業主任者による指揮 |
10×1=10(高) |
| 建設業 | 資材の荷揚げ(移動式クレーン) | 吊り荷が振れて、合図者に激突する | 玉掛け資格者による作業 |
10×2=20(最優先) |
介錯ロープの使用、吊り荷の旋回範囲への立入禁止 |
10×1=10(高) |
| 製造業 | 研削盤での研削作業 | 研削といしが破損し、破片が飛来して負傷する | といしの覆いの設置 |
6×2=12(高) |
覆いの点検、作業開始前・といし交換時の試運転の徹底、保護めがねの着用 |
6×1=6(中) |
| 物流・倉庫 | フォークリフトの走行 | フォークリフトが歩行者と接触する | 歩行者通路の床表示 |
10×2=20(最優先) |
通路の物理的な分離(柵)、交差点へのミラー設置、構内速度の制限 |
10×1=10(高) |
| サービス・清掃 | 床の清掃作業 | 濡れた床で滑って転倒し、骨折する | 清掃中の口頭での声かけ |
3×4=12(高) |
清掃中の区画と表示、滑りにくい靴の支給 |
3×2=6(中) |
| 介護 | ベッドから車いすへの移乗介助 | 無理な姿勢で抱え上げ、腰を痛める | 2人での介助(人手がある時のみ) |
3×4=12(高) |
リフト等の福祉用具の使用、移乗手順の標準化 |
3×2=6(中) |
記入のポイントは、危険性を「〜して〜になる」の形で書くことと、追加対策を「人の注意」より先に「設備・仕組み」で考えることだ(本質的対策 → 工学的対策 → 管理的対策 → 個人用保護具の順。上の「低減措置の優先順位」を参照)。この記入例をそのまま書き込めるリスクアセスメントシート(Excel・自動計算つき)も無料で配布している。
よくある記入ミスと修正方法
リスクアセスメントシートの提出後に「記入が不十分」と差し戻されるケースは多い。現場でよく起きる5つのミスとその修正方法を解説する。
ミス1:危険性の特定が抽象的すぎる
❌ ミス例:「高所作業で危険がある」
✅ 修正例:「外壁塗装のため高さ8mの足場上で作業中、足場板の隙間に足を踏み外し墜落する」
修正ポイント:「どこで・何をしているときに・何が起きるか」を具体的に書く。場所・高さ・作業内容・発生する災害の種類を明記する。
ミス2:リスクスコアの根拠が不明
❌ ミス例:重篤度「4」発生可能性「3」→リスクスコア「12」(根拠なし)
✅ 修正例:重篤度「4(死亡・重篤:骨折以上)」発生可能性「3(過去に類似事故あり)」→スコア12。備考欄に根拠を記載
修正ポイント:評価基準表を書類に添付するか、評価の判断根拠を備考欄に一言添える。「なぜこのスコアか」を誰でも理解できるようにする。
ミス3:対策が「注意する」「気をつける」だけ
❌ ミス例:「高所作業時は注意する」
✅ 修正例:「フルハーネス型安全帯を使用し、作業開始前に親綱への掛け替えを完了してから移動する」
修正ポイント:「誰が・いつ・何をするか」が分かる具体的な行動で記載する。精神論(「注意」「徹底」)は対策として認められない。
ミス4:リスク低減後の再評価がない
❌ ミス例:対策を記入しているが、対策後のリスクスコアが空欄
✅ 修正例:対策後のリスクスコアを「5(許容可能な範囲)」と記入し、残留リスクを明記する
修正ポイント:対策前と対策後のリスクスコアを両方記入することで、対策の効果が定量的に示される。
ミス5:見直し日・担当者の空欄
リスクアセスメントには「いつ実施したか」「誰が実施したか」「次回見直し予定」の記載が必要だ。これらが空欄だと、書類の有効性が問われる場面がある。特に労基署の調査では実施日と担当者名が確認されるため、必ず記入する。
まとめ
- リスクアセスメントは労働安全衛生法で定められた安全管理手法
- 5ステップ(特定→見積り→優先度→対策→記録)で進める
- リスクは「重篤度×発生可能性」で数値化する
- 対策は本質的対策から順に検討する
- 定期的な見直しで実効性を維持する
形式的な書類作成で終わらせず、実際の事故防止につながるリスクアセスメントを実施しましょう。
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よくある質問(FAQ)
Q: リスクアセスメントは法律で義務ですか?
労働安全衛生法第28条の2により、事業者にはリスクアセスメントの実施が「努力義務」として定められています。ただし、化学物質を取り扱う場合は2024年4月から一部義務化されています。実質的に多くの現場で実施が求められています。
Q: リスクアセスメントシートの書式に決まりはありますか?
法定の書式はありません。厚生労働省が「職場のあんぜんサイト」で推奨するフォーマットを参考に、自社の業種・作業内容に合わせてカスタマイズするのが一般的です。最低限「危険性の特定」「リスクの見積り」「対策」の3項目は必要です。
Q: リスクアセスメントはどのくらいの頻度で見直すべきですか?
最低でも年1回の定期見直しが推奨されます。加えて、新しい機械・設備の導入時、作業方法の変更時、労働災害やヒヤリハットが発生した時にも見直しを行うべきです。
Q: リスクの見積り方法にはどんな種類がありますか?
代表的な方法は3つあります。①マトリクス法(重篤度×発生可能性の表で評価)、②加算法(重篤度+発生頻度+回避可能性のスコア合計)、③枝分かれ図法(分岐チャートで判定)。建設業ではマトリクス法が最も多く使われています。
Q: リスクアセスメントとKY活動の違いは何ですか?
KY活動は「その日の作業に対する危険予知」で、毎朝5〜10分で実施します。リスクアセスメントは「作業全体のリスクを体系的に評価」する仕組みで、事前に計画的に実施します。両者は補完関係にあり、リスクアセスメントの結果をKY活動に活用するのが理想的です。