現場コンパス

「犯人探し」から「原因究明」へ|心理的安全性が現場の安全を変える理由

なぜヒヤリハット報告は集まらないのか。その答えは心理的安全性にある。報告しやすい職場づくりと安全文化の醸成方法を解説。

著者: 安全ポスト+編集部

「報告したら、自分が怒られるんじゃないか」

現場でヒヤリハットを経験したとき、こんな不安がよぎったことはないだろうか。

建災防の実態調査によると、建設業従事者の58.2%がヒヤリハットを経験している。しかし、そのすべてが報告されているわけではない。

報告されない理由は単純だ。「報告すると不利益を被る」と感じているからだ。

今回は、この問題を解決するカギとなる「心理的安全性」について解説する。


心理的安全性とは何か

心理的安全性(Psychological Safety)とは、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱した概念だ。

プレジデント総合研究所の解説によると、「チームにおいて、対人関係におけるリスクを負うことに対して安心できるという共通の認識」と定義されている。

噛み砕いて言うと、こういうことだ。

  • こんなことを言ったら馬鹿にされるんじゃないか
  • ミスを報告したら評価が下がるんじゃないか
  • 意見を言ったら面倒な人だと思われるんじゃないか

こういった不安を感じずに、自由に発言できる状態。それが心理的安全性が高い職場だ。

Googleの研究で注目された

心理的安全性が広く知られるようになったきっかけは、Googleの社内研究「プロジェクト・アリストテレス」だ。

この研究では、チームの生産性を左右する要因を調査した結果、「誰がチームにいるか」よりも「チームメンバーがどう協力しているか」が重要だとわかった。

そして、高パフォーマンスチームに共通していた最大の要因が「心理的安全性」だったのだ。


なぜ心理的安全性がヒヤリハット報告に影響するのか

ヒヤリハット報告は、まさに「対人リスク」を伴う行為だ。

報告者が恐れていること

ワークフロー総研の調査によると、ヒヤリハット報告が定着しない理由として以下が挙げられている。

  1. 問題意識の低さ: 「大したことない」と思って報告しない
  2. 面倒くささ: 報告書を書く時間がない
  3. 評価への不安: 報告すると自分の評価が下がると思っている
  4. 犯人探しへの恐怖: 報告した内容から「誰がやったか」を詮索される

特に3と4は、心理的安全性と直結している問題だ。

医療現場での事例

エドモンドソン教授の研究は、もともと病院での医療過誤報告から始まった。

興味深いことに、医療過誤の報告数が多いチームほど、実際のミスが少なかったという。逆に、報告が少ないチームはミスが隠蔽されており、重大事故につながるリスクが高かった。

厚生労働省も2001年から医療現場にハインリッヒの法則を応用したヒヤリハット運動を導入している。報告を増やすことで、重大事故を未然に防ぐ取り組みだ。


心理的安全性が低い職場の特徴

自分の職場の心理的安全性はどうだろうか。以下の特徴に心当たりがあれば、要注意だ。

チェックリスト

項目 心理的安全性が低い状態
ミスの扱い ミスした人を責める、名前を出して批判する
会議の雰囲気 発言する人が決まっている、沈黙が多い
質問への対応 「そんなことも知らないのか」と言われる
報告のタイミング 悪いニュースは隠される、遅れて報告される
改善提案 「余計なことを言うな」と却下される

株式会社ソフィアの解説によると、心理的安全性が不足している職場では、「無知」「無能」「邪魔をしている」と思われる不安から、質問や相談を躊躇するようになる。

結果として、小さな問題が見過ごされ、後に大きなトラブルに発展する。


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心理的安全性を高める5つのポイント

では、具体的にどうすれば心理的安全性を高められるのか。HQ福利厚生ナビの記事などを参考に、5つのポイントを紹介する。

1. リーダーが先にミスを認める

「自分もこんな失敗をしたことがある」

リーダーがこう言えるかどうかで、チームの雰囲気は大きく変わる。完璧な上司より、弱みを見せられる上司のほうが、部下は安心して発言できる。

朝礼や安全ミーティングで、自分の過去のヒヤリ体験を共有してみてほしい。

2. 報告を「責める」のではなく「感謝」する

ヒヤリハット報告があったとき、最初の反応が重要だ。

「なんでそんなことしたんだ」ではなく、「教えてくれてありがとう」。

報告してくれたこと自体を評価する姿勢を見せることで、次も報告しようという気持ちになる。

3. 「人」ではなく「仕組み」を問題にする

「誰がやったか」ではなく「なぜ起きたか」。

4M分析の考え方を使って、個人の責任ではなく、Machine(設備)やMethod(手順)に問題がなかったかを検討する。

「犯人探し」から「原因究明」へ。この姿勢を明確に示すことが大切だ。

4. 小さな成功体験を積み重ねる

最初から全員が報告するようにはならない。

まずは報告しやすい雰囲気の人から始めて、「報告しても大丈夫だった」という成功体験を作る。それが周囲に伝染していく。

報告件数を目標にするより、「報告してよかった」という声を集めることを優先する。

5. 匿名で報告できる仕組みを用意する

心理的安全性を高める努力は大切だが、すぐには変わらない。

だからこそ、匿名で報告できる仕組みを併用することが有効だ。

匿名であれば、「誰が言ったか」を気にせず本音を伝えられる。集まった報告を分析することで、組織の問題点も見えてくる。


「ぬるま湯組織」との違い

ここで一つ注意点がある。

心理的安全性が高い職場は、「なんでも許される」職場ではない。

日本能率協会マネジメントセンターの解説によると、心理的安全性と「仕事の基準」は別の軸だ。

象限 心理的安全性 仕事の基準 状態
A 高い 高い 高パフォーマンス
B 高い 低い ぬるま湯組織
C 低い 高い 不安・プレッシャー
D 低い 低い 無関心・離職

目指すべきは象限A。安心して発言できるけれど、仕事の質には妥協しない。

「ミスを報告しても責められない」と「ミスを許容する」は違う。報告を歓迎しつつ、再発防止には真剣に取り組む。このバランスが重要だ。


安全文化の醸成と心理的安全性

HUMAN CAPITALサポネットの記事によると、心理的安全性はリスク管理の観点からも重要だ。

問題指摘や批判的な意見により否定的な評価を受けるのではないかという不安は、重要な課題の見過ごしを招く。結果として、後に深刻な事態を招く可能性が高まる。

ハインリッヒの法則との関係

ハインリッヒの法則は「1:29:300」の比率で知られる。

リクルートエージェントの解説によると、1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故、そして300件のヒヤリハットがある。

この「300」を拾い上げられるかどうかは、報告しやすい環境があるかどうかにかかっている。

心理的安全性が低い職場では、300のヒヤリハットが報告されず、やがて1の重大事故として表面化する。


まとめ:報告文化を変える第一歩

心理的安全性を高めることは、一朝一夕にはできない。組織文化を変えるには時間がかかる。

しかし、今日からできることもある。

すぐに実践できること

  1. 次の報告には「ありがとう」で返す
  2. 自分のヒヤリ体験を朝礼で共有する
  3. 「誰がやったか」ではなく「なぜ起きたか」を議論する
  4. 匿名で報告できる仕組みを導入する

特に4番目は、心理的安全性が十分に育っていない段階でも効果を発揮する。

安全ポスト+は、AIが報告内容に含まれる個人情報を自動的に匿名化する。報告者の情報はシステムにも残らない完全匿名だから、「誰が言ったか」を追跡しようがない。

これによって、報告者は安心して「本当のこと」を伝えられるようになる。

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