【2026年施行】労働安全衛生法改正の全ポイント
建設業が今すぐ準備すべき6つの対策
厚生労働省資料をもとに施行日別・対象者別に徹底整理
1. なぜ今回の改正は「過去最大級」なのか
2025年5月14日、労働安全衛生法及び作業環境測定法の改正法が公布された。2026年1月1日から段階的に施行され、2029年頃までに完全施行となる。
今回の改正が「過去最大級」と言われる理由は、対象者の範囲が大幅に拡大した点にある。
⚠️ 改正の核心ポイント
- 一人親方・個人事業者が初めて労働安全衛生法の保護対象かつ義務主体に
- 50人未満の事業場もストレスチェックが義務化
- 高年齢労働者対策が事業者の努力義務に
厚生労働省は改正の目的を「多様な人材が安全に、かつ安心して働き続けられる職場環境の整備を推進するため」としている。
建設業では、技能者の約15.6%(推計51万人)が一人親方として働いている。60歳以上の技能者は全体の25.8%を占め、10年後には大半が引退する見込みだ。こうした業界特有の課題に、今回の改正は正面から対応している。
2. 改正の施行スケジュール一覧
改正は6段階に分けて施行される。自社に関係する項目がいつ施行されるか、確認しておこう。
| 施行日 | 主な改正内容 | 対象 |
|---|---|---|
| 2025年5月14日 (公布日・施行済み) |
注文者等の配慮規定の明確化 | 発注者・元請 |
| 2026年1月1日 | 特定自主検査・技能講習の不正防止対策強化 | 検査業者・講習機関 |
| 2026年4月1日 | ・元方事業者の措置義務対象拡大(一人親方含む) ・高年齢労働者対策(努力義務) ・治療と仕事の両立支援(努力義務) ・化学物質の代替名通知 ・特定機械等の民間検査移管 |
元請・事業者全般 |
| 2026年10月1日 | 個人ばく露測定の義務化 | 化学物質取扱事業者 |
| 2027年1月1日 | 個人事業者の業務上災害報告制度創設 | 一人親方・個人事業者 |
| 2027年4月1日 | 個人事業者自身への安全衛生義務 | 一人親方・個人事業者 |
| 公布後3年以内 (2028年頃) |
ストレスチェック義務化(50人未満事業場) | 全事業場 |
3. 【最重要】個人事業者・一人親方への義務拡大
建設業にとって最もインパクトが大きいのが、一人親方・個人事業者に対する規制の導入だ。
労働者と同じ場所で働く個人事業者等を労働安全衛生法による保護の対象及び義務の主体として位置づけ、注文者等や個人事業者等自身が講ずべき各種措置を定めました。
出典:厚生労働省「労働安全衛生法改正リーフレット」
3-1. 元方事業者の責任範囲が拡大(2026年4月1日施行)
R8.4.1施行 混在作業場所での措置義務対象拡大
元方事業者が講ずべき安全衛生措置の対象が、従来の「労働者」から「作業従事者」に拡大される。つまり、現場で働く一人親方も保護対象となる。
- 協議組織の設置・運営への一人親方参加
- 作業間の連絡調整への一人親方包含
- 安全衛生教育の実施対象に一人親方追加
3-2. 一人親方自身にも義務が課される(2027年4月1日施行)
R9.4.1施行 個人事業者等自身への義務付け
労働者と同一の場所で作業を行う個人事業者に対し、以下が義務付けられる。
- 構造規格や安全装置を具備しない機械等の使用禁止
- 特定の機械等に対する定期自主検査の実施
- 危険・有害な業務に就く際の安全衛生教育の受講
3-3. 業務上災害報告制度の創設(2027年1月1日施行)
R9.1.1施行 一人親方の災害報告義務
個人事業者等の業務上災害が発生した場合、災害発生状況等について厚生労働省に報告させることができるようになる。報告主体や報告事項の詳細は今後、関連法令で示される予定。
🏗️ 建設業への具体的影響
国土交通省の調査によると、従業員9人以下の小規模建設企業では44.5%が一人親方という実態がある。元請企業は、協力会社を通じて関係する一人親方の把握と、安全衛生管理体制への組み込みが急務となる。
4. ストレスチェック義務化が全事業場へ拡大
現在、常時50人以上の労働者を使用する事業場に義務付けられているストレスチェックが、50人未満の事業場にも義務化される。
現行制度との違い
| 項目 | 現行(50人以上) | 改正後(全事業場) |
|---|---|---|
| ストレスチェック | 義務 | 義務 |
| 高ストレス者への面接指導 | 義務 | 義務 |
| 50人未満事業場 | 努力義務 | 義務 |
| 集団分析・職場環境改善 | 努力義務 | 努力義務 |
厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査」によると、50人以上の事業場では実施率89.8%に対し、10〜49人規模の事業場では57.8%にとどまっている。約30ポイントの格差がある。
出典:厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査」
中小建設業者が準備すべきこと
- 実施体制の構築:産業医がいない事業場は、地域産業保健センター(地さんぽ)の活用を検討
- 実施方法の選定:厚労省の無料ツール「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」の活用
- 費用の見積もり:外部委託の場合、1人あたり500〜2,000円程度が目安
施行は公布後3年以内(最長2028年)だが、第14次労働災害防止計画では2027年を目標に「50人未満の小規模事業場のストレスチェック実施率50%以上」を掲げている。早めの準備が望ましい。
5. 高年齢労働者対策が努力義務に
2026年4月1日から、高年齢労働者の特性に配慮した措置を講じることが事業者の努力義務となる。
建設業の高齢化の現状
建設業の60歳以上の技能者は全体の約25.8%(約4分の1)を占めており、10年後には大半が引退することが見込まれている。55歳以上では36.7%に達する。
出典:総務省「労働力調査」(令和6年平均)をもとに国土交通省作成
求められる「配慮措置」の内容
国が定める指針に基づき、以下のような措置が求められる見込みだ。
- 作業環境の改善:照度の確保、段差の解消、手すりの設置
- 作業管理:重量物取扱いの軽減、作業ペースの配慮
- 健康管理:定期的な健康診断、体力測定の実施
- 安全衛生教育:加齢に伴う身体機能低下への理解促進
なお、厚生労働省の既存ガイドライン「エイジフレンドリーガイドライン」も参考になる。
6. 治療と仕事の両立支援
2026年4月1日から、治療と仕事の両立を促進するために必要な措置を講じることが事業者の努力義務となる。
がん、脳卒中、心疾患などの病気を抱えながら働く労働者は増加傾向にある。建設業では、がん治療を受けながら現場監督業務を続けるケースや、糖尿病の管理をしながら作業に従事するケースなどが想定される。
事業者が講じるべき措置(指針で具体化予定)
- 両立支援に関する相談窓口の設置
- 勤務時間・作業内容の柔軟な調整
- 主治医との連携体制の構築
- 職場復帰支援プランの策定
7. 化学物質・機械等の規制強化
7-1. 化学物質管理の厳格化
塗装工事や解体工事など、化学物質を取り扱う建設業者に影響がある。
- SDS通知義務違反への罰則新設(公布後5年以内)
- 個人ばく露測定の義務化(2026年10月1日):有資格者(作業環境測定士等)による測定が必要に
- 営業秘密成分の代替名通知(2026年4月1日)
7-2. 機械等の検査制度見直し
- 特定機械等の民間検査移管(2026年4月1日):移動式クレーン、ゴンドラの検査を登録民間機関が実施可能に
- 技能講習の不正防止強化(2026年1月1日):フォークリフト等の不正修了証発行禁止、違反時の欠格期間延長
8. 事業者が今すぐ始めるべき準備チェックリスト
✅ 改正対応チェックリスト
-
一人親方・個人事業者の把握
協力会社を通じて、現場で働く一人親方をリストアップ。契約書の見直しも検討。 -
安全衛生管理体制の見直し
協議組織への一人親方参加、安全衛生教育の対象拡大を計画。 -
ストレスチェック体制の構築計画
50人未満事業場は、地域産業保健センターや外部委託先の選定を開始。 -
高齢者作業環境のアセスメント
エイジフレンドリーガイドラインに基づき、現場の危険箇所をチェック。 -
安全教育プログラムの更新
一人親方向け教育、高齢者向け教育のコンテンツを整備。 -
デジタル記録・報告体制の整備
災害報告制度に備え、一人親方の災害発生状況を記録できる体制を構築。
📌 まとめ:改正対応はデジタル化とセットで
2026年施行の労働安全衛生法改正は、建設業に大きな影響を与える。特に重要なポイントは以下の3点だ。
- 一人親方が保護対象かつ義務主体に:元請の管理責任拡大、一人親方自身の義務化
- ストレスチェックが全事業場で義務化:50人未満も対象に(2028年頃施行)
- 高年齢労働者対策が努力義務に:作業環境・作業管理・健康管理の配慮
段階施行のため、今から計画的に準備を進めることが重要だ。特に、一人親方の把握や安全教育記録、ストレスチェック結果の管理など、デジタルツールを活用した効率化が対応のカギとなる。
📚 参考文献
公開日:2026年1月19日 | カテゴリ:法令・コンプライアンス