現場で労働災害(労災)が発生した場合、事業者は速やかに所轄の労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」を提出しなければならない。この報告を怠ったり虚偽の内容を記載したりすれば、刑事罰の対象となる。本稿では、様式24号(休業4日以上)と様式23号(休業4日未満)の記入例・提出先・期限・罰則を実務的に解説する。
労災報告書とは何か|法的義務の概要
労災報告書とは、正式名称を「労働者死傷病報告」といい、労働安全衛生法第100条および労働安全衛生規則第97条に基づいて事業者に提出が義務付けられた公式書類である。
報告義務が生じる条件は以下のとおりである。
- 労働者が業務上の負傷・疾病により死亡した場合
- 労働者が業務上の負傷・疾病により休業した場合(日数を問わない)
派遣労働者の場合、報告義務は派遣先事業者と派遣元事業者の双方に課されている(安衛則第97条第2項)。
様式24号と様式23号の違い
| 区分 | 書式 | 対象 | 提出期限 |
|---|---|---|---|
| 様式24号 | 労働者死傷病報告(休業4日以上・死亡) | 死亡または休業4日以上の負傷・疾病 | 遅滞なく(事故発生後できる限り早急に) |
| 様式23号 | 労働者死傷病報告(休業4日未満) | 休業1〜3日の負傷・疾病 | 四半期ごと(1〜3月分:4月末、4〜6月分:7月末、7〜9月分:10月末、10〜12月分:翌年1月末) |
様式24号(休業4日以上・死亡)の記入方法と記入例
様式24号は、もっとも重大性の高い事故報告書である。記入漏れや誤記があると、監督署から訂正を求められるだけでなく、その後の調査で不利な印象を与えかねない。
主要記入欄の解説と記入例
事業場の名称・所在地 正式な登記名称を使用する。複数の現場を持つ場合は、事故が起きた事業場(現場)の名称・住所を記載する(本社住所ではない)。
例)
事業の名称:株式会社〇〇建設 △△ビル新築工事作業所
所在地:東京都港区△△2丁目3番4号
業種 建設工事であれば「建設業(建築工事業・土木工事業など)」、製造業であれば具体的な製品カテゴリを記載する。日本標準産業分類(総務省)に基づく表記が望ましい。
労働者の氏名・年齢・性別 住民票または雇用契約書に記載された正確な氏名を記入する。外国籍の場合は在留カード記載の氏名を用いる。
傷病の名称および部位 医師の診断書に記載された傷病名と一致させること。「打撲」「骨折(右手首)」「腰椎捻挫」など、部位も含めて正確に記載する。
災害発生日時・場所 24時間表記で記載する(例:午前10時15分→10:15)。場所は「○棟3階東面 足場上」のように具体的に記入する。
災害の原因・状況(具体的に記載)
記入例:
作業内容:△△ビル新築工事における外壁仕上げ工事
状況:外壁塗装作業中、作業員Aが単管足場(地上高さ約7.5m)の踏み板上で足を滑らせ転落。
原因:(1)踏み板に付着した塗料による滑り、(2)安全帯(ハーネス型)の親綱への
未フック状態での作業、(3)当日の朝礼で安全帯使用徹底の指示はあったが
現地確認が不十分であった。
休業見込み期間 初回提出時点での医師の見解を記載する。後日変更になる場合でも、初回は判明している情報を記入し、確定後に補足報告を行えばよい。
再発防止措置 具体的かつ実施可能な措置内容を記載する。「安全教育を行う」といった抽象的な表現は避け、「全作業員を対象に安全帯フック確認の個別指導を翌営業日に実施し、作業主任者が作業開始前に全員の安全帯接続を目視確認する体制に変更する」と具体化する。
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様式23号(休業4日未満)の記入方法と記入例
様式23号は四半期ごとにまとめて提出するため、記録が煩雑になりやすい。しかし、「軽傷だから」と記録をおろそかにすると、後に重大事故の伏線となっていたことが判明しても対策が打てない。
様式23号の特徴
- 1枚の用紙に複数件の事故を記載できる様式となっている(件数が多い場合は用紙を追加)
- 休業日数は「実際に休業した日数」を記載し、負傷当日は休業日数に含めない
- 「療養のみ」(通院のみで休業なし)は報告義務の対象外だが、社内管理の観点から記録しておくことが推奨される
様式23号 記入例
提出年月日:令和8年4月25日(1〜3月分まとめ)
No.1
発生日:令和8年2月10日(10:30)
氏名:田中 次郎 / 年齢:35歳 / 性別:男
傷病:右手人差し指裂傷
発生原因:プレス機の型交換作業中、指を挟む
休業日数:2日
提出先・提出方法・保存義務
提出先
所轄の労働基準監督署(事業場の所在地を管轄する監督署)に提出する。本社が異なる都道府県にある場合でも、事故が発生した事業場(現場)を管轄する監督署への提出となる点に注意が必要である。
提出方法
- 郵送または持参:書面による提出が原則
- 電子申請(e-Gov):厚生労働省のe-Govポータル経由での電子提出が可能(様式24号・23号ともに対応)。押印不要で手続きが簡略化される
- FAX:一部の監督署では受け付けているが、原則として正式提出とは別に原本の送付が必要な場合もあるため、事前に確認すること
保存義務
労働者死傷病報告の控えは、3年間の保存義務がある(労働安全衛生法第103条)。
虚偽報告・不提出の罰則
「労災かくし」と呼ばれる、労働災害の事実を隠蔽したり虚偽の内容で報告したりする行為は、労働安全衛生法第100条違反として厳しく罰せられる。
罰則内容
| 違反行為 | 罰則 |
|---|---|
| 報告の不提出(報告義務の違反) | 50万円以下の罰金(安衛法第120条第5号) |
| 虚偽の報告 | 50万円以下の罰金(同上) |
| 労災かくし(意図的な隠蔽) | 50万円以下の罰金 + 行政指導・公表・書類送検 |
2023年以降、厚生労働省は「労災かくし」に対する取り締まりを強化しており、監督署による立入調査や書類送検のケースが増加している。元請から「報告するな」と指示されたとしても、法的責任は事業者・管理者双方に及ぶ。
労働基準監督署への対応ノウハウ
重篤な労働災害が発生した場合、監督署の調査官が現場に立入調査に来ることがある。この場合、適切な対応をとることが事業者・管理者双方にとって重要である。
立入調査時の基本姿勢
- 誠実かつ正確な情報提供:隠蔽や情報の歪曲は厳禁。調査官は経験豊富であり、不自然な説明はかえって疑念を招く。
- 書類の速やかな提示:作業日報・安全教育記録・リスクアセスメント記録・安全パトロール記録などを事前に整理しておく。安全パトロール記録の整備については「安全パトロールの指摘事項一覧と是正報告の書き方」も参照されたい。
- 関係者への事前周知:調査官との面談が予定される作業員・職長・作業主任者に対し、事実を正確に話すよう指示するとともに、担当弁護士への相談も検討する。
- 改善計画の主体的な提示:調査官から指摘を受ける前に、事業者側から積極的に再発防止計画を提示する姿勢が重要である。
調査後の対応
監督署から「是正勧告書」または「改善指示書」が交付された場合は、指定期日までに是正報告書を提出する義務がある。期日を厳守し、是正状況を写真付きで明確に報告すること。
よくある質問(FAQ)
Q1. 労災が発生した場合、様式24号の提出は労災保険給付の手続きと別に必要か?
必要である。労災保険の給付申請(療養補償給付・休業補償給付など)と、様式24号・23号の提出は別個の法的義務である。給付申請は被災労働者本人または遺族が行うものであり、様式24号・23号は事業者の報告義務である。両者を混同すると提出漏れが生じやすいため注意が必要である。
Q2. 派遣労働者が被災した場合、誰が報告書を提出するのか?
派遣先事業者と派遣元事業者の両方が報告書を提出する義務を負う(安衛則第97条第2項)。提出先は、それぞれの事業場(派遣先の現場、派遣元の本社等)を管轄する労働基準監督署となる。
Q3. 休業見込み期間が診断時と変わった場合、再提出は必要か?
様式24号は初回提出後に休業期間が変わっても再提出の義務は規定されていないが、監督署から求められた場合や死亡に至った場合は速やかに追報を行うことが望ましい。なお、様式23号については四半期末時点での確定日数を記載するため、原則として四半期内に完結した事案を記載する。
Q4. 下請け会社の作業員が被災した場合、元請は報告義務を負うか?
建設業においては、特定元方事業者(元請)は下請け作業員の労働災害についても監督署への事故発生の連絡義務を負う(安衛則第635条)。ただし、様式24号・23号の提出義務を負うのは当該作業員を雇用している下請事業者である。元請・下請双方が密に連携し、情報を共有したうえで適切な報告を行う必要がある。
まとめ
労災報告書(様式24号・23号)は、被災労働者の保護と再発防止の出発点となる重要な公式書類である。本稿のポイントを整理する。
- 様式24号は死亡・休業4日以上、様式23号は休業4日未満で書式と提出期限が異なる
- 記入内容は診断書・現場記録と一致させ、原因分析と再発防止策を具体的に記載する
- 不提出・虚偽報告は50万円以下の罰金対象であり、「労災かくし」は書類送検リスクがある
- 監督署調査には誠実に対応し、関連書類を日頃から整備しておくことが最大の備えとなる
日常の安全管理記録・ヒヤリハット報告・安全パトロール記録を体系的に管理しておくことが、万一の際の対応力を大幅に高める。
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