「不良品が出た。担当者に注意した。でも、また同じ問題が起きた」
現場でこんな経験をしたことはないだろうか。表面的な対策では問題は解決しない。根本原因にたどり着かなければ、同じ失敗を繰り返すだけだ。
そこで有効なのが「なぜなぜ分析」である。本記事では、トヨタ生産方式から生まれたこの手法の基本から実践方法、よくある失敗パターンまで詳しく解説する。
なぜなぜ分析とは
なぜなぜ分析とは、問題に対して「なぜ?」を繰り返し問いかけることで、表面的な原因ではなく根本原因(Root Cause)を特定する問題解決手法である。
英語では「5 Whys」と呼ばれ、1930年代に豊田佐吉氏が考案したとされる。その後、トヨタ自動車の大野耐一氏がトヨタ生産方式(TPS)の中核手法として体系化した。大野氏は著書『トヨタ生産方式』(1978年、ダイヤモンド社)の中で、この手法を「トヨタの科学的アプローチの基礎」と位置づけている。
現在では製造業だけでなく、IT業界のSRE(Site Reliability Engineering)やサービス業など、幅広い分野で活用されている。
なぜ「5回」なのか
「5回」という数字は目安に過ぎない。
実際には3回で根本原因に到達することもあれば、7回必要なケースもある。重要なのは回数ではなく、「これ以上掘り下げても対策が変わらない」というレベルまで到達することだ。
ただし、経験則として5回程度掘り下げると、多くの問題で本質的な原因に行き着く。これが「5 Whys」と呼ばれる所以である。
なぜなぜ分析の具体的なやり方【5ステップ】
ステップ1:問題を明確に定義する
まず、何が問題なのかを具体的に言語化する。
悪い例:「品質が悪い」 良い例:「製品Aの外観検査で、塗装ムラによる不良が先月比2%増加した」
数値や事実を含めて定義することで、分析の方向性がブレにくくなる。
ステップ2:最初の「なぜ」を問う
定義した問題に対して「なぜそれが起きたのか?」を問いかける。
問題:塗装ムラによる不良が2%増加した なぜ1:塗装の膜厚が均一でなかった
この段階では「何が起きたか」という直接的な原因を特定する。
ステップ3:答えに対してさらに「なぜ」を重ねる
最初の回答に対して、さらに「なぜ」を問いかける。
なぜ1:塗装の膜厚が均一でなかった なぜ2:スプレーガンの噴出量が不安定だった なぜ3:ノズルが一部詰まっていた なぜ4:定期清掃が実施されていなかった なぜ5:清掃スケジュールが作業標準書に明記されていなかった
ステップ4:根本原因に到達したか確認する
根本原因かどうかを判断する基準は以下の通りだ。
- この原因を解消すれば、問題が再発しないか?
- この原因は、仕組みやシステムで対策できるか?
- これ以上「なぜ」を問いかけても、対策が変わらないか?
上記の例では「作業標準書の不備」が根本原因となる。これを修正すれば、清掃が確実に実施され、ノズル詰まりを防げる。
ステップ5:対策を立案・実行する
根本原因に対して具体的な対策を立案する。
根本原因:清掃スケジュールが作業標準書に明記されていなかった 対策:作業標準書に週次清掃の手順とチェックリストを追加
対策は「注意する」「気をつける」ではなく、仕組みとして再発を防げるものにすることが重要だ。
【業界別】なぜなぜ分析の実践例
製造業での事例:製品不良率の改善
ある中小メーカーでは、同じ製造ラインで何度も不良品が発生していた。なぜなぜ分析を実施したところ、「新人教育のマニュアルが古くなっていた」ことが根本原因だと判明。マニュアルを更新し、教育プロセスを見直すことで不良率が大幅に改善した。
IT業界での事例:システム障害の再発防止
Googleをはじめとする多くのテック企業では、システム障害後に「ポストモーテム(事後分析)」を実施している。ここでなぜなぜ分析が活用される。
SREの現場では「Blameless(非難のない)」文化が重視される。「担当者がミスをした」で終わらせず、「なぜミスが起きやすい状況だったのか」「なぜシステムがそのミスを検知できなかったのか」まで掘り下げる。
例えば、本番環境での誤操作が問題だった場合:
- なぜ1:本番環境で誤ったコマンドを実行した
- なぜ2:本番環境とテスト環境の見分けがつきにくかった
- なぜ3:ターミナルの背景色が同じだった
- なぜ4:環境ごとの視覚的な区別が設計されていなかった
- 対策:本番環境のターミナルは赤色背景に統一
サービス業での事例:顧客クレーム対応
ある小売企業では、顧客クレームへの個別対応に月100万円のコストがかかっていた。なぜなぜ分析を導入し、根本原因が「在庫管理システムの不具合」だと特定。システムを修正した結果、クレーム数が80%減少し、大幅なコスト削減と顧客満足度向上を同時に達成した。
なぜなぜ分析でよくある失敗と対策
失敗1:「人のせい」で止めてしまう
悪い例: なぜ不良品が出た?→ 作業者が確認を怠った → 作業者に注意した
これでは同じ問題が再発する。人のミスの背後には、必ずシステムや仕組みの問題がある。
良い例: なぜ確認を怠った?→ 確認項目が多すぎた → なぜ多い?→ チェックリストが最適化されていなかった → 対策:チェックリストを簡素化し、重要項目を目立たせる
失敗2:対策が「注意する」「気をつける」になる
精神論に頼る対策は、守られなくなりがちだ。
悪い対策:「今後は十分注意する」「ダブルチェックを徹底する」 良い対策:「システムに自動チェック機能を追加する」「エラー時にアラートを発報する」
仕組みで防げる対策を考えることが重要である。
失敗3:分岐せずに一本道で進めてしまう
現実の問題は、複数の原因が絡み合っていることが多い。一つの「なぜ」に対して複数の回答がある場合は、分岐してそれぞれを深掘りする必要がある。
例えば「なぜ納期に遅れた?」に対して、
- 設計変更が頻発した
- 部品の入荷が遅れた
という2つの原因があれば、両方を別々に深掘りする。
より複雑な問題にはFTAやFMEAとの併用を
なぜなぜ分析は強力なツールだが、万能ではない。トヨタの元専務・蓑浦照幸氏も「複雑な問題に対しては、根本原因を十分な深さまで分析するには基本的すぎるツール」と指摘している。
複雑な問題には、以下の手法との併用が効果的だ。
- FTA(故障の木解析):トップダウンで障害経路を網羅的に分析
- FMEA(故障モード影響解析):故障モードとその影響を体系的に評価
- 特性要因図(フィッシュボーン):4M(Man, Machine, Material, Method)で原因を分類
AIを活用した効率的ななぜなぜ分析
従来のなぜなぜ分析には、いくつかの課題があった。
- 時間がかかる(1回の分析に30分〜1時間)
- 進行役のスキルに依存する
- 分岐が増えると管理が複雑になる
- 対策案が属人的になりがち
こうした課題を解決するのが、AI支援ツールである。
📱 WhyTrace Connect - AIなぜなぜ分析ツール
業種と問題を入力するだけで、AIが自動的になぜなぜ分析ツリーを生成。根本原因の特定から対策提案まで、通常1〜3分で完了する。
- 10業種対応の専門フレームワーク
- 分岐する複数原因も自動で整理
- 対策案の自動生成機能
まとめ:なぜなぜ分析を成功させる3つのポイント
なぜなぜ分析は、シンプルながら強力な問題解決手法である。成功させるためのポイントをまとめると、
- 「人のせい」で止めない:ミスの背後にある仕組みの問題まで掘り下げる
- 対策は仕組みで:「注意する」ではなく、システムや手順で再発を防ぐ
- 複数原因は分岐させる:一本道で済ませず、それぞれを深掘りする
1930年代にトヨタで生まれたこの手法は、今なおIT企業のインシデント対応から製造業の品質管理まで、幅広い現場で活用されている。AIツールを活用すれば、さらに効率的に根本原因を特定できる時代になった。
問題が起きたときこそ、組織が学び、成長するチャンスだ。なぜなぜ分析を活用して、再発しない本質的な対策を見つけてほしい。
現場改善に役立つ関連ツール
GenbaCompassでは、WhyTrace以外にも現場のDXを支援するツールを提供している。併せてチェックしてみてほしい。
| ツール名 | 概要 | こんな課題に |
|---|---|---|
| WhyTrace | AIなぜなぜ分析ツール | 根本原因分析の効率化 |
| AnzenAI | AI安全書類作成支援 | KY活動記録、ヒヤリハット報告 |
| 安全ポスト+ | 安全ポスター自動生成 | 注意喚起の掲示物作成 |
| PlantEar | 設備異音検知AI | 機械の予兆保全・故障予防 |
よくある質問(FAQ)
Q: なぜなぜ分析は必ず5回行う必要がありますか?
A: いいえ、5回は目安です。3回で根本原因に到達することもあれば、7回以上必要なこともあります。「これ以上掘り下げても対策が変わらない」レベルまで到達することが重要です。
Q: 一人でもなぜなぜ分析はできますか?
A: 可能です。ただし、複数人で実施した方が多角的な視点を得られ、思い込みを防げます。一人で行う場合は、AIツールを活用して客観的な視点を補うのも有効です。
Q: なぜなぜ分析とRCA(根本原因分析)の違いは何ですか?
A: RCA(Root Cause Analysis)は根本原因を特定する手法の総称です。なぜなぜ分析は、RCAの代表的な手法の一つ。他にもFTA、FMEA、特性要因図などがRCAに含まれます。