「FMEAを作成しろと言われたが、ワークシートの各欄に何を書けばいいかわからない」
ISO 9001やIATF 16949の監査対応、あるいは顧客からの要求でFMEAの作成を求められる場面は増えている。しかし、初めてFMEAに取り組む担当者がつまずくのは、概念の理解ではなく「具体的に何を書くか」だ。
本記事では、FMEAワークシートの各欄の意味と書き方を、設計FMEA(DFMEA)・工程FMEA(PFMEA)それぞれの記入例付きで解説する。
FMEAワークシートとは?各欄の役割
FMEAワークシートとは、故障モード影響解析(Failure Mode and Effects Analysis)の分析結果を記録するための帳票である。製品や工程に潜む故障モードを洗い出し、その影響・原因・現行の管理手段を整理し、リスクの大きさを評価する。
ワークシートの基本構成(10項目)
| 欄 | 記入内容 | 書き方のポイント |
|---|---|---|
| 対象アイテム/工程 | 分析対象の部品名や工程名 | 図面番号や工程番号を併記 |
| 機能/要求事項 | その部品・工程が果たすべき機能 | 「〜する」の動詞形で記載 |
| 故障モード | 機能が失われる・劣化する様態 | 「〜しない」「〜が過大/過小」 |
| 故障の影響 | 故障が最終製品や顧客に与える影響 | エンドユーザー視点で記載 |
| S(深刻度) | 影響の重大さ(1〜10) | 安全に関わる場合は9-10 |
| 故障の原因 | 故障モードを引き起こすメカニズム | 物理的・技術的な原因を記載 |
| O(発生頻度) | 原因が発生する可能性(1〜10) | 過去の不良率データを参照 |
| 現行の管理手段 | 予防管理と検出管理に分けて記載 | 「何を使って」「いつ」検出するか |
| D(検出度) | 出荷前に検出できる可能性(1〜10) | 1=確実に検出、10=検出不可 |
| RPN / AP | リスク評価値 | RPN=S×O×D、またはAP(H/M/L) |
設計FMEA(DFMEA)の記入例
設計FMEAは、製品設計段階で潜在的な故障を分析する。対象は部品・アセンブリの設計仕様である。
記入例:自動車ブレーキホースの設計FMEA
| 欄 | 記入例 |
|---|---|
| 対象アイテム | ブレーキホース(図番: BH-2026-01) |
| 機能 | マスターシリンダからキャリパーへブレーキ液を伝達する |
| 故障モード | ホースの内面が膨張し、液圧が低下する |
| 故障の影響 | ブレーキペダルのストロークが増大し、制動距離が延びる。最悪の場合、制動不能 |
| S(深刻度) | 9(安全に直結) |
| 故障の原因 | 内層ゴム材の耐熱性不足により、高温環境下で材料が軟化する |
| O(発生頻度) | 4(年間数件の市場報告あり) |
| 予防管理 | 材料規格で耐熱温度150℃以上を指定 |
| 検出管理 | 耐久試験(120℃×500時間の膨張量測定) |
| D(検出度) | 3(試験で検出可能) |
| RPN | 9×4×3 = 108 |
記入例:電子基板のコネクタ設計FMEA
| 欄 | 記入例 |
|---|---|
| 対象アイテム | 基板間コネクタ(図番: CN-44P) |
| 機能 | 2枚の基板間で信号を伝送する(44ピン、最大電流2A) |
| 故障モード | 端子の接触抵抗が増大し、信号伝送が不安定になる |
| 故障の影響 | 製品の動作が断続的に停止する(間欠不良) |
| S(深刻度) | 7(製品機能喪失だが安全には直結しない) |
| 故障の原因 | 端子のめっき厚が不足し、挿抜による摩耗で母材が露出する |
| O(発生頻度) | 5(類似コネクタで年10件程度の不良報告) |
| 予防管理 | めっき厚の下限値を図面で指定(最小0.76μm) |
| 検出管理 | 受入検査でめっき厚を蛍光X線で測定(抜取検査n=5) |
| D(検出度) | 4(抜取検査のため全数検出は不可) |
| RPN | 7×5×4 = 140 |
DFMEAの書き方で押さえるべき3点
- 故障モードは「機能の裏返し」で書く — 機能が「液圧を伝達する」なら、故障モードは「液圧が低下する」「液圧が伝達されない」
- 影響はエンドユーザー視点 — 「ゴムが軟化する」ではなく「ブレーキが効かなくなる」
- 原因は物理メカニズム — 「設計ミス」ではなく「耐熱性不足により材料が軟化する」
工程FMEA(PFMEA)の記入例
工程FMEAは、製造工程で発生しうるトラブルを予防するために実施する。対象は設備・作業者・材料・手順など、製造に関わる要素である。
記入例:プレス加工工程のPFMEA
| 欄 | 記入例 |
|---|---|
| 工程名 | プレス打抜き(工程番号: OP-030) |
| 機能 | 鋼板から所定形状のブランクを打ち抜く(公差±0.1mm) |
| 故障モード | 打抜き寸法が公差を超える(過大) |
| 故障の影響 | 後工程の溶接位置がずれ、組立不良が発生する |
| S(深刻度) | 6(後工程で手直し可能だが工数増) |
| 故障の原因 | 金型のパンチ摩耗により、クリアランスが拡大する |
| O(発生頻度) | 6(金型寿命末期に月2〜3回発生) |
| 予防管理 | 金型のショット数管理(10万ショットで定期点検) |
| 検出管理 | 初品検査でノギス測定(始業時・段取替え時) |
| D(検出度) | 5(初品のみで連続生産中は未検査) |
| RPN | 6×6×5 = 180 → 対策要 |
記入例:めっき処理工程のPFMEA
| 欄 | 記入例 |
|---|---|
| 工程名 | 電気ニッケルめっき(工程番号: OP-050) |
| 機能 | 製品表面にニッケルめっきを施す(膜厚10±2μm) |
| 故障モード | めっき膜厚が下限を下回る(薄膜) |
| 故障の影響 | 耐食性が低下し、顧客使用環境で錆が発生する |
| S(深刻度) | 8(顧客クレーム・市場返品) |
| 故障の原因 | めっき液の金属イオン濃度が低下する |
| O(発生頻度) | 3(液管理を実施しており発生頻度は低い) |
| 予防管理 | めっき液の分析を週1回実施(イオン濃度管理) |
| 検出管理 | 蛍光X線膜厚計で全数測定 |
| D(検出度) | 2(全数検査で検出率が高い) |
| RPN | 8×3×2 = 48 → 許容範囲 |
PFMEAの書き方で押さえるべき3点
- 工程ごとに機能を定義する — 「プレスで打ち抜く」ではなく「所定形状のブランクを公差±0.1mmで打ち抜く」
- 予防管理と検出管理を分ける — 予防=原因の発生を抑える管理、検出=故障を見つける管理
- Oの評価は実績データに基づく — 「たぶん少ない」ではなく、不良率や発生件数から評価
RPN評価で失敗しない記入のコツ
S・O・D評価の基準表
各項目の評価基準を社内で統一しておかないと、担当者によってスコアがばらつく。以下は一般的な評価基準である。
深刻度(S)の基準
| スコア | 基準 | 影響の例 |
|---|---|---|
| 9-10 | 安全上の問題 / 法規不適合 | 人身事故の可能性、リコール対象 |
| 7-8 | 製品機能の喪失 | 顧客クレーム、市場返品 |
| 5-6 | 製品機能の低下 | 性能劣化、後工程で手直し |
| 3-4 | 軽微な不具合 | 外観不良、顧客は気づかない程度 |
| 1-2 | 影響なし | 検出されても問題にならない |
発生頻度(O)の基準
| スコア | 基準 | 目安の不良率 |
|---|---|---|
| 9-10 | 非常に高い | ≧100ppm |
| 7-8 | 高い | 10〜100ppm |
| 5-6 | 中程度 | 1〜10ppm |
| 3-4 | 低い | 0.1〜1ppm |
| 1-2 | 極めて低い | <0.1ppm |
検出度(D)の基準
| スコア | 基準 | 検出方法の例 |
|---|---|---|
| 1-2 | ほぼ確実に検出 | 全数自動検査、ポカヨケ |
| 3-4 | 高い確率で検出 | 抜取検査+管理図 |
| 5-6 | 検出可能だが確実ではない | 目視検査、抜取検査のみ |
| 7-8 | 検出困難 | 抜取検査頻度が低い |
| 9-10 | 検出不可 | 管理手段なし |
RPNの判定基準の例
| RPNレンジ | リスクレベル | 対応 |
|---|---|---|
| 200以上 | 高リスク | 即時対策必須 |
| 100〜199 | 中リスク | 対策を検討・計画 |
| 100未満 | 低リスク | 現状管理を継続 |
ただし、RPNだけで判断するのは危険だ。S=10(安全問題)の項目は、RPNが低くても優先的に対策すべきである。
FMEAの分析をAIで効率化してみよう
FMEAで洗い出した故障モードの原因をさらに深掘りする場合、なぜなぜ分析(5Why)との組み合わせが有効だ。「なぜその故障原因が発生するのか」をAIが自動で深掘りしてくれる。
