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FMEAワークシートの記入例|各欄の書き方を設計・工程別に解説

著者: WhyTrace編集部13品質管理
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「FMEAを作成しろと言われたが、ワークシートの各欄に何を書けばいいかわからない」

ISO 9001やIATF 16949の監査対応、あるいは顧客からの要求でFMEAの作成を求められる場面は増えている。しかし、初めてFMEAに取り組む担当者がつまずくのは、概念の理解ではなく「具体的に何を書くか」だ。

本記事では、FMEAワークシートの各欄の意味と書き方を、設計FMEA(DFMEA)・工程FMEA(PFMEA)それぞれの記入例付きで解説する。


FMEAワークシートとは?各欄の役割

FMEAワークシートとは、故障モード影響解析(Failure Mode and Effects Analysis)の分析結果を記録するための帳票である。製品や工程に潜む故障モードを洗い出し、その影響・原因・現行の管理手段を整理し、リスクの大きさを評価する。

ワークシートの基本構成(10項目)

記入内容 書き方のポイント
対象アイテム/工程 分析対象の部品名や工程名 図面番号や工程番号を併記
機能/要求事項 その部品・工程が果たすべき機能 「〜する」の動詞形で記載
故障モード 機能が失われる・劣化する様態 「〜しない」「〜が過大/過小」
故障の影響 故障が最終製品や顧客に与える影響 エンドユーザー視点で記載
S(深刻度) 影響の重大さ(1〜10) 安全に関わる場合は9-10
故障の原因 故障モードを引き起こすメカニズム 物理的・技術的な原因を記載
O(発生頻度) 原因が発生する可能性(1〜10) 過去の不良率データを参照
現行の管理手段 予防管理と検出管理に分けて記載 「何を使って」「いつ」検出するか
D(検出度) 出荷前に検出できる可能性(1〜10) 1=確実に検出、10=検出不可
RPN / AP リスク評価値 RPN=S×O×D、またはAP(H/M/L)

設計FMEA(DFMEA)の記入例

設計FMEAは、製品設計段階で潜在的な故障を分析する。対象は部品・アセンブリの設計仕様である。

記入例:自動車ブレーキホースの設計FMEA

記入例
対象アイテム ブレーキホース(図番: BH-2026-01)
機能 マスターシリンダからキャリパーへブレーキ液を伝達する
故障モード ホースの内面が膨張し、液圧が低下する
故障の影響 ブレーキペダルのストロークが増大し、制動距離が延びる。最悪の場合、制動不能
S(深刻度) 9(安全に直結)
故障の原因 内層ゴム材の耐熱性不足により、高温環境下で材料が軟化する
O(発生頻度) 4(年間数件の市場報告あり)
予防管理 材料規格で耐熱温度150℃以上を指定
検出管理 耐久試験(120℃×500時間の膨張量測定)
D(検出度) 3(試験で検出可能)
RPN 9×4×3 = 108

記入例:電子基板のコネクタ設計FMEA

記入例
対象アイテム 基板間コネクタ(図番: CN-44P)
機能 2枚の基板間で信号を伝送する(44ピン、最大電流2A)
故障モード 端子の接触抵抗が増大し、信号伝送が不安定になる
故障の影響 製品の動作が断続的に停止する(間欠不良)
S(深刻度) 7(製品機能喪失だが安全には直結しない)
故障の原因 端子のめっき厚が不足し、挿抜による摩耗で母材が露出する
O(発生頻度) 5(類似コネクタで年10件程度の不良報告)
予防管理 めっき厚の下限値を図面で指定(最小0.76μm)
検出管理 受入検査でめっき厚を蛍光X線で測定(抜取検査n=5)
D(検出度) 4(抜取検査のため全数検出は不可)
RPN 7×5×4 = 140

DFMEAの書き方で押さえるべき3点

  1. 故障モードは「機能の裏返し」で書く — 機能が「液圧を伝達する」なら、故障モードは「液圧が低下する」「液圧が伝達されない」
  2. 影響はエンドユーザー視点 — 「ゴムが軟化する」ではなく「ブレーキが効かなくなる」
  3. 原因は物理メカニズム — 「設計ミス」ではなく「耐熱性不足により材料が軟化する」

工程FMEA(PFMEA)の記入例

工程FMEAは、製造工程で発生しうるトラブルを予防するために実施する。対象は設備・作業者・材料・手順など、製造に関わる要素である。

記入例:プレス加工工程のPFMEA

記入例
工程名 プレス打抜き(工程番号: OP-030)
機能 鋼板から所定形状のブランクを打ち抜く(公差±0.1mm)
故障モード 打抜き寸法が公差を超える(過大)
故障の影響 後工程の溶接位置がずれ、組立不良が発生する
S(深刻度) 6(後工程で手直し可能だが工数増)
故障の原因 金型のパンチ摩耗により、クリアランスが拡大する
O(発生頻度) 6(金型寿命末期に月2〜3回発生)
予防管理 金型のショット数管理(10万ショットで定期点検)
検出管理 初品検査でノギス測定(始業時・段取替え時)
D(検出度) 5(初品のみで連続生産中は未検査)
RPN 6×6×5 = 180 → 対策要

記入例:めっき処理工程のPFMEA

記入例
工程名 電気ニッケルめっき(工程番号: OP-050)
機能 製品表面にニッケルめっきを施す(膜厚10±2μm)
故障モード めっき膜厚が下限を下回る(薄膜)
故障の影響 耐食性が低下し、顧客使用環境で錆が発生する
S(深刻度) 8(顧客クレーム・市場返品)
故障の原因 めっき液の金属イオン濃度が低下する
O(発生頻度) 3(液管理を実施しており発生頻度は低い)
予防管理 めっき液の分析を週1回実施(イオン濃度管理)
検出管理 蛍光X線膜厚計で全数測定
D(検出度) 2(全数検査で検出率が高い)
RPN 8×3×2 = 48 → 許容範囲

PFMEAの書き方で押さえるべき3点

  1. 工程ごとに機能を定義する — 「プレスで打ち抜く」ではなく「所定形状のブランクを公差±0.1mmで打ち抜く」
  2. 予防管理と検出管理を分ける — 予防=原因の発生を抑える管理、検出=故障を見つける管理
  3. Oの評価は実績データに基づく — 「たぶん少ない」ではなく、不良率や発生件数から評価

RPN評価で失敗しない記入のコツ

S・O・D評価の基準表

各項目の評価基準を社内で統一しておかないと、担当者によってスコアがばらつく。以下は一般的な評価基準である。

深刻度(S)の基準

スコア 基準 影響の例
9-10 安全上の問題 / 法規不適合 人身事故の可能性、リコール対象
7-8 製品機能の喪失 顧客クレーム、市場返品
5-6 製品機能の低下 性能劣化、後工程で手直し
3-4 軽微な不具合 外観不良、顧客は気づかない程度
1-2 影響なし 検出されても問題にならない

発生頻度(O)の基準

スコア 基準 目安の不良率
9-10 非常に高い ≧100ppm
7-8 高い 10〜100ppm
5-6 中程度 1〜10ppm
3-4 低い 0.1〜1ppm
1-2 極めて低い <0.1ppm

検出度(D)の基準

スコア 基準 検出方法の例
1-2 ほぼ確実に検出 全数自動検査、ポカヨケ
3-4 高い確率で検出 抜取検査+管理図
5-6 検出可能だが確実ではない 目視検査、抜取検査のみ
7-8 検出困難 抜取検査頻度が低い
9-10 検出不可 管理手段なし

RPNの判定基準の例

RPNレンジ リスクレベル 対応
200以上 高リスク 即時対策必須
100〜199 中リスク 対策を検討・計画
100未満 低リスク 現状管理を継続

ただし、RPNだけで判断するのは危険だ。S=10(安全問題)の項目は、RPNが低くても優先的に対策すべきである。


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AIAG-VDA方式(AP評価)の記入例

2019年にAIAGとVDAが共同で発行した新しいFMEAハンドブックでは、従来のRPN方式に代わりAP(Action Priority)方式が採用された。RPNの「掛け算」による評価のばらつきを解消し、深刻度を重視した優先度判定を行う。

AP評価の3段階

AP 意味 対応
H(High) 高リスク 対策必須。技術的に不可能な場合は経営層が受容を承認
M(Medium) 中リスク 対策を推奨。未対応の場合は理由を文書化
L(Low) 低リスク 対策不要。継続的改善の対象として検討可

AP評価の記入例

項目 記入例
故障モード ボルト締付トルクが不足する
S 8(機能喪失・安全リスクあり)
O 4(トルクレンチ使用で発生頻度は低い)
D 6(抜取検査のみ、全数確認ではない)
AP H(対策必須)
推奨措置 デジタルトルクレンチ導入+全数データ記録

RPNで計算すると 8×4×6=192 で「中リスク」と判定される場合でも、AP方式ではS=8の深刻度を重視して「H(対策必須)」と判定される。これがAP方式の最大の特徴である。

参考: AIAG-VDA FMEAハンドブック では、S・O・Dの組み合わせごとにAP判定テーブルが定義されている。


よくある記入ミスと修正方法

ミス1:故障モードが曖昧

❌「品質が悪い」「不良が出る」 ✅「寸法が上限公差を超える」「表面に0.5mm以上の傷がつく」

故障モードは測定可能・検証可能な表現で書く。

ミス2:原因と故障モードが同じ

❌ 故障モード「パンチが摩耗する」→ 原因「パンチが摩耗する」 ✅ 故障モード「打抜き寸法が公差外になる」→ 原因「パンチ摩耗によりクリアランスが拡大する」

故障モードは「何が起きるか(結果)」、原因は「なぜ起きるか(メカニズム)」で書き分ける。

ミス3:検出管理が空欄

検出管理が「なし」の場合、D=10(検出不可)となりRPNが跳ね上がる。意図的にD=10とする場合でも、「検出手段なし(今後導入検討)」と記載し、空欄にしない。

ミス4:対策後の再評価を忘れる

FMEAでは対策実施後にS・O・Dを再評価し、残留リスクを確認する。対策前のRPN=180が対策後にRPN=60に下がったことを記録しないと、FMEAの効果を証明できない。


よくある質問

Q. FMEAは誰が書くべきですか?

FMEAは設計者や工程技術者が一人で書くものではなく、クロスファンクショナルチーム(設計・製造・品質・保全・購買など)で実施するのが基本である。IATF 16949でもチームアプローチが要求されている。リーダーは対象工程や製品に最も詳しい担当者が務めるのが効果的だ。

Q. RPN方式とAP方式はどちらを使うべきですか?

自動車業界(IATF 16949対応)ではAIAG-VDA方式(AP評価)への移行が進んでいる。それ以外の業界ではRPN方式が依然として主流である。顧客や規格からの指定がなければ、自社で使いやすい方を選んで問題ない。

Q. FMEAのRPNはいくつ以上で対策が必要ですか?

一律の基準はない。一般的には「RPN 100以上」や「RPN 125以上」を対策ラインとする企業が多いが、重要なのはRPNの絶対値ではなく相対的な優先順位付けである。S=9-10(安全問題)の項目はRPNに関わらず優先的に対策すべきだ。

Q. 既存のFMEAワークシートをExcelで管理する限界は?

Excelでの管理は初期段階では有効だが、製品・工程が増えると版管理の混乱、チーム間の同時編集の困難、過去データの検索性の低さが問題になる。FMEAの件数が50件を超えたあたりから、専用ツールやクラウドベースの管理システムへの移行を検討する企業が多い。


まとめ

FMEAワークシートの記入で最も重要なのは、「故障モード」「影響」「原因」の3つを明確に書き分けることだ。

  • 故障モードは機能の裏返しで書く(「伝達する」→「伝達しない/低下する」)
  • 影響はエンドユーザー視点で書く(「材料が軟化」ではなく「ブレーキが効かない」)
  • 原因は物理メカニズムで書く(「ミス」ではなく「摩耗によりクリアランス拡大」)
  • S・O・Dの評価基準は社内で統一し、担当者間のばらつきを防ぐ
  • 対策後は必ず再評価を行い、残留リスクを記録する

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國分 良太

著者

國分 良太

制御設計エンジニア → AI・IoT・DX推進|東京の製造業メーカー開発部門

製造業の現場で設備設計・改善プロジェクト・品質向上施策に従事。なぜなぜ分析(RCA)やリスクアセスメントの実務経験をもとに、現場DXを支援するアプリケーションの開発と情報発信に取り組んでいます。

※ 本サイトは所属企業とは関係のない個人活動です。記載の見解は筆者個人のものです。