「設計段階で不具合を予測したい」
製品の市場クレームや工程不良は、発生してからでは対応コストが大きくなる。事前に問題を予測し、対策を打つ手法が求められている。
この記事では、FMEA(故障モード影響解析)の目的と進め方を解説する。RPN(リスク優先度)の算出方法と、対策立案の手順を紹介する。
FMEAとは
FMEA(Failure Mode and Effects Analysis)は、製品や工程で発生しうる故障モードを事前に予測し、対策を考える品質管理手法だ。
FMEAの起源
FMEAは、もともと米軍が信頼性確保のために開発した手法だ。1949年に米軍が発行したMIL-P-1629(手順書)がその起源とされる。
その後、1960年代にNASAがアポロ計画をはじめとする宇宙開発プログラムに採用し、航空宇宙分野で広く活用された。こうした実績が評価され、現在では自動車、医療機器、電子機器など幅広い業界で使われている。特に車載製品を扱う製造現場では、コアツールの一つとして活用が求められる。
FMEAの種類
FMEAには、分析対象によって2つの種類がある。
| 種類 | 分析対象 | 目的 |
|---|---|---|
| 設計FMEA(DFMEA) | 製品設計 | 設計段階で製品の故障モードを予測 |
| 工程FMEA(PFMEA) | 製造工程 | 製造段階で工程の故障モードを予測 |
RPNとは
RPN(Risk Priority Number:リスク優先度数)は、故障モードのリスクの大きさを数値化したものだ。
RPNの計算式
RPNは、3つの評価指標を掛け合わせて算出する。
RPN = 影響度(S) × 発生度(O) × 検出度(D)
| 評価指標 | 内容 |
|---|---|
| 影響度(Severity) | 故障が発生した場合の影響の大きさ |
| 発生度(Occurrence) | 故障が発生する頻度 |
| 検出度(Detection) | 故障を検出する難しさ |
評価基準(10段階)
各指標は1〜10の10段階で評価する。
影響度(Severity):
| スコア | 影響の程度 |
|---|---|
| 1〜2 | 軽微(ユーザーが気付かないレベル) |
| 3〜4 | 軽度(ユーザーが不満を感じる) |
| 5〜6 | 中程度(機能低下を招く) |
| 7〜8 | 重度(製品が使用不能になる) |
| 9〜10 | 致命的(安全・法規制に関わる) |
発生度(Occurrence):
| スコア | 発生頻度 |
|---|---|
| 1〜2 | 非常に稀(ほぼ発生しない) |
| 3〜4 | 稀(時々発生) |
| 5〜6 | 中程度(定期的に発生) |
| 7〜8 | 高い(頻繁に発生) |
| 9〜10 | 非常に高い(ほぼ確実に発生) |
検出度(Detection):
| スコア | 検出の難しさ |
|---|---|
| 1〜2 | 容易(ほぼ確実に検出できる) |
| 3〜4 | 高い(高確率で検出できる) |
| 5〜6 | 中程度(検出できることが多い) |
| 7〜8 | 低い(検出が難しい) |
| 9〜10 | 非常に低い(ほぼ検出できない) |
RPNの判断基準
算出されたRPNの数値が大きいほど、リスクが高い。一般的な目安として以下のような基準が使われることが多い。ただし閾値は業界や企業ごとに異なるため、自社基準に合わせて設定することが重要だ。
| RPN | リスクレベル | 対応 |
|---|---|---|
| 100以上 | 高リスク | 改善必須 |
| 50〜99 | 中リスク | 改善推奨 |
| 50未満 | 低リスク | 経過観察 |
AIAG-VDA FMEAにおけるAP評価への移行
2019年にAIAG(米国自動車産業協会)とVDA(ドイツ自動車工業会)が共同で発行した「AIAG-VDA FMEAハンドブック」では、従来のRPN方式が廃止された。代わりに導入されたのが、AP(Action Priority:対応優先度)方式だ。
APは影響度・発生度・検出度の組み合わせをテーブル参照して、High / Medium / Low の3段階で優先度を判定する。数値の掛け算ではないため、評価のバラつきが生じにくく、意思決定のシンプル化につながるとされている。
| AP評価 | 意味 | 対応 |
|---|---|---|
| High | 高優先度 | 改善策を必ず実施する |
| Medium | 中優先度 | 改善策の実施を検討する |
| Low | 低優先度 | 改善の余地があれば対応する |
現在も多くの現場でRPN方式が使われているが、自動車業界では新ハンドブックへの移行が進んでいる。どちらの方式を使うかは、取引先や業界団体の要件を確認したうえで決定したい。
FMEAの進め方
FMEAを効果的に進めるための5ステップを紹介する。
ステップ1:対象の明確化
分析対象となる製品または工程を明確にする。
確認事項:
- 分析対象(製品名、工程名)
- 分析範囲(どこからどこまで)
- 変化点(新規設計、設計変更、工程変更など)
変化点がある部分は特にリスクが高いため、重点的に分析する。
ステップ2:故障モードの洗い出し
対象で発生しうる故障モードを洗い出す。
故障モードの例:
- 設計FMEA:破損、変形、腐食、摩耗、剥離、短絡など
- 工程FMEA:欠品、誤組付け、締め忘れ、寸法不良など
洗い出しのポイント:
- 過去の不具合データを参照する
- 類似製品・類似工程の実績を確認する
- チームで複数人がブレインストーミングを行う
ステップ3:影響・原因・現行管理の記入
各故障モードについて、以下を記入する。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 故障の影響 | 故障が発生した場合、どのような影響があるか |
| 故障の原因 | なぜその故障が発生するか(潜在的な原因) |
| 現行の管理方法 | 現在どのような管理で故障を防止・検出しているか |
ステップ4:RPNの算出
影響度・発生度・検出度を評価し、RPNを算出する(AIAG-VDA方式の場合はAP評価を行う)。
評価のポイント:
- 評価基準を統一し、一貫した基準で評価する
- 複数人で評価し、バラつきを確認する
- 過去データがあれば参考にする
ステップ5:改善対策の立案と実施
RPNが高い(またはAPがHighの)故障モードに対して、改善対策を立案する。
| 対象 | 改善方法 | 例 |
|---|---|---|
| 発生度を下げる | 故障が起きにくくする | 作業手順の改善、自動化、教育訓練 |
| 検出度を下げる | 故障を見つけやすくする | センサー導入、検査項目の追加、測定精度向上 |
注意点:影響度は、製品や工程の目的が変わらない限り下げることが難しい。発生度と検出度を下げることに注力するのが実際的だ。
FMEAフォーマット例
工程FMEAのフォーマット例を示す。
| 工程 | 故障モード | 影響 | S | 原因 | O | 現行管理 | D | RPN | 対策 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ネジ締め | 締め忘れ | 部品脱落 | 8 | 作業者の確認漏れ | 4 | 目視検査 | 6 | 192 | トルクレンチでカウント管理 |
| はんだ付け | はんだ不足 | 導通不良 | 7 | 温度設定ミス | 3 | 外観検査 | 5 | 105 | 温度センサーで自動管理 |
FMEA実施のポイント
チームで実施する
FMEAは一人で行うのではなく、チームで実施するのがよい。
チーム構成の例:
- 設計担当者
- 製造担当者
- 品質担当者
- 保全担当者
複数人で実施することで、故障モードの抽出に抜け漏れが少なくなる。
評価基準を統一する
評価対象が複数ある場合は、評価基準を統一することが重要だ。
統一すべき項目:
- 影響度・発生度・検出度の評価基準
- RPNの判断基準(またはAP評価の運用ルール)
- 対策の優先順位
継続的に見直す
FMEAは一度作成して終わりではない。定期的に見直すことが重要だ。
見直しのタイミング:
- 設計変更時
- 工程変更時
- 市場クレーム発生時
- 定期レビュー(年1回など)
なぜなぜ分析で原因を深掘り
「WhyTrace」は、5Why分析で根本原因を究明するアプリ。
FMEAで洗い出した故障の原因を、さらに深掘りするのに最適。AIがなぜなぜ分析をサポートし、真因にたどり着く。
設計段階での品質作り込みに、ぜひ活用しよう。
AIAG-VDA方式への移行ポイント
2019年にAIAG(米国自動車産業協会)とVDA(ドイツ自動車工業会)が共同発行した「AIAG-VDA FMEAハンドブック」は、旧来のAIAG FMEA(第4版)やVDA FMEA方式から大きく変わった。自動車業界でサプライヤーに移行を求める動きが続いており、主な変更点と移行時の注意点を整理する。
新ハンドブックの主な変更点
1. 5ステップ→7ステップへの拡張
旧AIAG方式では5ステップで実施されていたFMEAが、新ハンドブックでは以下の7ステップに拡張された。
| ステップ | 内容 | 旧方式との主な変更 |
|---|---|---|
| Step 1 | 計画とプロジェクト定義 | 新設(スコープと前提条件を明確化) |
| Step 2 | 構造分析 | 新設(システム構造の視覚化) |
| Step 3 | 機能分析 | 新設(機能・要求事項の明確化) |
| Step 4 | 故障分析 | 従来の「故障モードの洗い出し」に相当 |
| Step 5 | リスク分析 | RPNからAP(Action Priority)評価へ移行 |
| Step 6 | 最適化 | 対策立案・実施(内容は同様) |
| Step 7 | 結果の文書化 | 新設(承認・トレーサビリティの強化) |
Step 1〜3は「予防的FMEAのための基礎固め」として新設されたステップだ。スコープを明確にし、システム構造を階層的に整理してから故障分析に入ることで、分析の網羅性と再現性が向上する。
2. RPNからAP(Action Priority)評価への転換
最大の変更点は、リスク評価方式の転換だ。旧方式では「S×O×D」の積算によりRPN(数値)を算出していたが、新方式ではS・O・Dの組み合わせをルックアップテーブルで参照し、High / Medium / Low の3段階で優先度(AP)を判定する。
この変更により、「重篤度が高いのに発生頻度が極めて低いためRPNが低くなる」という旧方式の欠点が解消された。APがHighの故障モードは、発生度や検出度によらず必ず対策が求められる。
3. フォーカス要素(FC)の導入
新ハンドブックでは、新設計・新工程・新環境など特定のリスク要因を「フォーカス要素(Focus Category:FC)」として明示し、分析の重点化を図る枠組みが設けられた。
移行時の主な準備事項
既存FMEAの棚卸しと優先順位付け
全製品・工程のFMEAを一度に新方式に移行することは現実的ではない。まず新規プロジェクト・設計変更時から新ハンドブックを適用し、既存FMEAは改訂タイミング(市場クレーム発生・設計変更・定期レビュー)に合わせて順次移行するアプローチが実務的だ。
評価基準テーブルの社内標準化
AIAG-VDA方式ではS・O・DのスコアリングとAPテーブルを社内標準として定め、評価者間のバラつきを最小化することが求められる。評価基準の統一なしに新方式を適用しても、APの判定がメンバーにより異なるという新たな問題が発生するため注意が必要だ。
取引先要件の確認
完成車メーカーによってAIAG-VDA方式への移行時期や要求の厳格さが異なる。移行前に取引先のサプライヤー要件書を確認し、求められる形式・テンプレートを把握しておくことが不可欠だ。
FMEAワークシートの具体的な記入方法についてはFMEAワークシートの書き方ガイドで詳しく解説している。
FMEA実施時のよくある失敗5選
FMEAは正しく実施すれば強力な品質予防ツールだが、現場での実施には典型的な落とし穴がある。よくある失敗パターンとその対処法を解説する。
失敗1:「書類作成」目的になってしまう
FMEA書を作成することが目的化し、実態を反映しない「優等生な書類」が出来上がるパターンだ。審査対応のためだけにFMEAを作成し、実際の設計レビューや工程改善に活用されていない場合が該当する。
対処法:FMEAを設計レビューの公式インプットとして位置付け、FMEA上のRPN(またはAP)High案件が解決されるまで設計承認が下りない運用ルールを設ける。
失敗2:担当者1人が「全部やる」
FMEAを品質担当者や設計担当者が単独で作成し、他部門がレビューしないパターンだ。単独作成では専門外の故障モードや現場での実態を見落としやすい。
対処法:設計・製造・品質・保全の4職種が最低限参加するクロスファンクショナルチームを設置し、各ステップでの合意形成を議事録に残す。
失敗3:評価スコアが「なんとなく」付けられる
S・O・Dの評価基準が社内で統一されておらず、担当者や部署によってスコアの基準がバラバラになっているパターンだ。同じ故障モードでもRPNが評価者によって2倍以上異なることも珍しくない。
対処法:S・O・Dの評価基準表を社内標準として制定し、評価者向けの訓練(過去事例を用いた評価練習)を実施する。評価後は複数人でクロスチェックを行う。
失敗4:一度作成したら「更新しない」
製品設計や工程内容が変更された際に、FMEAが更新されずに陳腐化するパターンだ。旧FMEAが実態と乖離したまま使い続けられ、新たなリスクが分析されないまま見落とされる。
対処法:4M変更(Man・Machine・Material・Methodの変更)が発生した際にFMEAの見直しを必須とするルールを変更管理手順書に明記する。また市場クレームや工程不良が発生した際も見直しのトリガーとする。
失敗5:対策後のRPNを再評価しない
対策を実施した後、改善後のS・O・DとRPNを算出せずに終わるパターンだ。対策の効果が数値で確認されないため、改善活動の成果が見えにくく、再発時に前回の対策との比較ができない。
対処法:FMEAシートに「改善後S」「改善後O」「改善後D」「改善後RPN(またはAP)」の列を設け、対策実施後に必ず再評価を記入するルールを運用基準に組み込む。対策前後のRPN比較が、継続的な改善の根拠として機能する。
慢性的な不良に対するFMEAと連携した分析手法についてはPM分析による慢性不良対策ガイドもあわせて参照されたい。
よくある質問(FAQ)
Q. FMEAとFTAはどちらを先に実施すべきですか?
一般的にはFMEAを先に実施することが推奨される。FMEAで製品・工程全体の故障モードを網羅的に洗い出し、その中で特に重大な故障モード(RPNが高い、またはAPがHighのもの)をFTAのトップ事象として設定するという流れが効率的だ。
Q. 中小製造業でもFMEAは必要ですか?
自動車・航空・医療機器などの業界以外でも、品質クレームが多い製品や、重大な事故につながる可能性がある工程では、FMEAの実施が品質リスク管理として有効だ。規模が小さい場合は、重要工程に絞ったシンプルなFMEAから始め、徐々に適用範囲を広げるアプローチが現実的だ。
Q. FMEAの実施頻度はどのくらいが適切ですか?
新製品開発・設計変更・工程変更のタイミングが基本的な実施タイミングだ。また、市場クレーム・工程不良の発生時、および年1回程度の定期レビューも推奨される。一度作成したFMEAは「生きた文書」として継続的に更新・管理することが重要だ。
まとめ
FMEAは、故障を事前に予測し対策を打つ手法だ。
FMEAの種類:
- 設計FMEA(DFMEA):製品設計が対象
- 工程FMEA(PFMEA):製造工程が対象
RPNの計算:
- RPN = 影響度(S) × 発生度(O) × 検出度(D)
- 各指標は1〜10の10段階で評価
- RPN 100以上は改善必須(目安。業界・企業により異なる)
- AIAG-VDA方式ではRPNに代わりAP(High/Medium/Low)評価を採用
FMEAの5ステップ:
- 対象の明確化
- 故障モードの洗い出し
- 影響・原因・現行管理の記入
- RPNの算出(またはAP評価)
- 改善対策の立案と実施
実施のポイント:
- チームで実施する
- 評価基準を統一する
- 継続的に見直す
FMEAを活用して、設計段階から品質を作り込もう。
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