「問題が起きた。対策を打った。でも、また同じ問題が発生した」
このサイクルから抜け出せないのは、根本原因に到達していないからだ。
根本原因分析(RCA: Root Cause Analysis)は、問題の表面的な症状ではなく、本質的な原因を特定するための体系的なアプローチである。本記事では、代表的な7つのRCA手法を網羅的に解説し、現場で最適な手法を選ぶための判断基準を提供する。
根本原因分析(RCA)とは
RCAとは、問題や事故の「真の原因」を特定し、再発防止策を立案するための分析手法の総称である。
RCAの3つの原則
- 再発防止が目的:犯人探しではなく、仕組みの改善を目指す
- 事実ベース:推測ではなく、データと証拠に基づいて分析する
- システム思考:個人のミスではなく、システムやプロセスの問題として捉える
RCAが必要な場面
- 製造現場での品質不良
- ITシステムの障害・インシデント
- 医療現場での医療事故
- サービス業での重大クレーム
- 安全事故・労働災害
7つのRCA手法一覧
| 手法 | 特徴 | 適した場面 | 難易度 |
|---|---|---|---|
| なぜなぜ分析(5Why) | シンプル、迅速 | 日常的な問題解決 | ★☆☆ |
| FTA(故障の木解析) | 網羅的、定量的 | 複雑なシステム障害 | ★★★ |
| FMEA | 予防的、体系的 | 設計・製造段階のリスク評価 | ★★☆ |
| 特性要因図(魚骨図) | 可視化、チーム向け | ブレインストーミング | ★☆☆ |
| パレート分析 | 優先順位付け | 多数の問題から重要課題を特定 | ★☆☆ |
| 8D | 包括的、標準化 | 顧客クレーム対応、品質問題 | ★★☆ |
| DMAIC | 統計的、継続的 | プロセス改善、品質向上 | ★★★ |
1. なぜなぜ分析(5Why)
概要
なぜなぜ分析は、問題に対して「なぜ?」を繰り返し問いかけることで根本原因を特定する手法である。1930年代にトヨタ自動車の豊田佐吉氏が考案し、大野耐一氏がトヨタ生産方式(TPS)の中核手法として体系化した。
特徴
- シンプル:特別な道具や知識が不要
- 迅速:30分〜1時間で完了
- 汎用性:あらゆる業種・問題に適用可能
- 現場向け:専門家でなくても実施できる
実施手順
- 問題を明確に定義する
- 「なぜ?」を問いかける
- 答えに対してさらに「なぜ?」を繰り返す(通常5回程度)
- 根本原因に到達したか確認する
- 対策を立案・実行する
向いている場面
- 製造現場での不良品発生
- サービス業でのクレーム対応
- IT運用でのインシデント対応
- 日常業務での改善活動
注意点
- 「人のせい」で止めない
- 対策は「注意する」ではなく仕組みで
- 複数原因は分岐して深掘りする
2. FTA(故障の木解析)
概要
FTA(Fault Tree Analysis)は、1961年にベル研究所のH.A. Watsonがミニットマンミサイルの安全性評価のために開発した。その後、ボーイング社や原子力産業で広く採用された。
特徴
- トップダウン:想定する障害から原因を分解
- 論理的:AND/ORゲートで原因関係を表現
- 定量的:故障確率を数値で算出可能
- 網羅的:すべての障害経路を可視化
ANDゲートとORゲート
- ORゲート:いずれかの原因で障害が発生(論理和)
- ANDゲート:すべての原因が重なった場合のみ発生(論理積)
向いている場面
- 航空宇宙産業の安全性分析
- 原子力発電所のリスク評価
- 自動車の機能安全(ISO 26262)
- 医療機器の故障分析
関連規格
- IEC 61025(フォルトツリー解析)
- ISO 26262(自動車機能安全)
3. FMEA(故障モード影響解析)
概要
FMEA(Failure Mode and Effects Analysis)は、1940年代に米国軍で開発され、その後NASAや自動車産業で標準的な品質管理手法となった。設計段階で潜在的な故障モードを特定し、その影響を事前に評価する。
特徴
- 予防的:問題が発生する前にリスクを評価
- 体系的:故障モードを網羅的にリストアップ
- 優先順位付け:RPN(リスク優先度数)で対策の優先度を決定
RPN(Risk Priority Number)の計算
RPN = 深刻度(S) × 発生頻度(O) × 検出難易度(D)
各項目は1〜10で評価し、RPNが高い項目から優先的に対策を講じる。
| 項目 | 評価内容 | スケール |
|---|---|---|
| 深刻度(Severity) | 故障が発生した場合の影響度 | 1(軽微)〜10(致命的) |
| 発生頻度(Occurrence) | 故障が発生する可能性 | 1(稀)〜10(頻繁) |
| 検出難易度(Detection) | 故障を検出できる可能性 | 1(確実に検出)〜10(検出不可) |
FMEAの種類
- DFMEA(Design FMEA):設計段階での故障分析
- PFMEA(Process FMEA):製造工程での故障分析
- SFMEA(System FMEA):システム全体の故障分析
向いている場面
- 新製品の設計段階
- 製造工程の品質管理
- 自動車・航空宇宙産業
- 医療機器開発
4. 特性要因図(フィッシュボーン/石川ダイアグラム)
概要
特性要因図は、1943年に石川馨博士(東京大学)が考案した。魚の骨に似た形状から「フィッシュボーンダイアグラム」、考案者の名前から「石川ダイアグラム」とも呼ばれる。
特徴
- 可視化:原因と結果の関係を一目で把握
- チーム向け:ブレインストーミングに最適
- 分類整理:原因を体系的にカテゴリ分け
- シンプル:専門知識なしで実施可能
4M / 5M / 6M フレームワーク
原因を分類する代表的なフレームワーク:
4M
- Man(人):作業者のスキル、教育、意識
- Machine(機械):設備、装置、工具
- Material(材料):原材料、部品の品質
- Method(方法):作業手順、標準作業
5M(4M + Measurement)
- Measurement(測定):検査方法、測定精度
6M(5M + Mother Nature)
- Mother Nature(環境):温度、湿度、騒音など
作成手順
- 問題(特性)を右側に記載
- 主要なカテゴリ(4M等)を大骨として描く
- 各カテゴリに原因を中骨・小骨として追加
- チームでブレインストーミングして原因を洗い出す
- 重要な原因を特定し、対策を検討
向いている場面
- 品質管理サークル活動
- チームでの問題解決
- 原因の洗い出しと整理
- 教育・研修での活用
5. パレート分析
概要
パレート分析は、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが発見した「80:20の法則」に基づく分析手法である。問題の80%は原因の20%から生じることが多いという経験則を活用する。
特徴
- 優先順位付け:重要な問題に集中できる
- データ駆動:数値データに基づく客観的分析
- 可視化:棒グラフと累積曲線で直感的に理解
- 効率的:限られたリソースで最大の効果
作成手順
- 問題をカテゴリ別に分類
- 各カテゴリの発生件数または影響度を集計
- 降順にソートして棒グラフを作成
- 累積比率を折れ線グラフで重ねる
- 上位20%(累積80%以下)の問題に優先対応
向いている場面
- 不良品の種類別分析
- クレームの原因別分析
- コスト削減の優先順位付け
- 改善活動のテーマ選定
6. 8D(8つの規律)
概要
8D(Eight Disciplines)は、1987年にフォード・モーター社が開発した問題解決手法である。顧客クレーム対応や製品品質問題の解決に広く使用され、自動車業界では標準的な手法となっている。
8つのステップ
| ステップ | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| D0 | 準備 | 問題の重要性評価、8Dが必要か判断 |
| D1 | チーム編成 | 適切なメンバーを選定 |
| D2 | 問題の定義 | 5W2Hで問題を明確化 |
| D3 | 暫定対策 | 顧客への影響を最小化 |
| D4 | 根本原因の特定 | なぜなぜ分析、FTAなどを活用 |
| D5 | 恒久対策の選定 | 効果的な対策を選択・検証 |
| D6 | 恒久対策の実施 | 対策を実行し効果を確認 |
| D7 | 再発防止 | 水平展開、標準化 |
| D8 | チームの評価 | 成功を称え、学びを共有 |
特徴
- 包括的:問題発見から水平展開まで網羅
- 標準化:報告書フォーマットが統一
- 顧客対応:暫定対策で顧客影響を最小化
- チーム重視:クロスファンクショナルな協力
向いている場面
- 顧客クレーム対応
- サプライヤー品質問題
- 製品リコール対応
- 重大な品質問題
7. DMAIC(シックスシグマ)
概要
DMAICは、1980年代にモトローラが開発し、GE(ゼネラル・エレクトリック)が世界に広めたシックスシグマの中核手法である。データ駆動型のプロセス改善アプローチで、統計的手法を駆使して品質向上を図る。
5つのフェーズ
| フェーズ | 内容 | 主なツール |
|---|---|---|
| Define(定義) | プロジェクト範囲、目標を明確化 | プロジェクト憲章、VOC |
| Measure(測定) | 現状を数値で把握 | データ収集、プロセスマップ |
| Analyze(分析) | 根本原因を特定 | パレート図、魚骨図、回帰分析 |
| Improve(改善) | 解決策を実施 | DOE(実験計画法)、ブレスト |
| Control(管理) | 改善を維持 | 管理図、標準作業手順書 |
特徴
- データ駆動:統計的手法に基づく意思決定
- 継続的改善:PDCAとの連携
- プロジェクト型:明確な目標とスケジュール
- 認定制度:ベルト制度(イエロー、グリーン、ブラック)
向いている場面
- 製造プロセスの品質改善
- サービス業の業務効率化
- コスト削減プロジェクト
- 大規模な組織変革
手法選択フローチャート
現場で迷ったときは、以下の判断基準を参考にしよう。
問題が発生した?
│
├─ YES → 緊急対応が必要?
│ │
│ ├─ YES → 8D(暫定対策 + 恒久対策)
│ │
│ └─ NO → 問題の複雑さは?
│ │
│ ├─ シンプル → なぜなぜ分析
│ ├─ 中程度 → 特性要因図 + なぜなぜ
│ └─ 複雑 → FTA
│
└─ NO → 予防的分析?
│
├─ YES → 設計段階?
│ │
│ ├─ YES → FMEA
│ └─ NO → FTA
│
└─ NO → 継続的改善?
│
├─ YES → DMAIC
└─ NO → パレート分析で優先度を決定
判断基準まとめ
| 状況 | 推奨手法 |
|---|---|
| 日常的な問題解決 | なぜなぜ分析 |
| チームでの原因洗い出し | 特性要因図 |
| 複雑なシステム障害 | FTA |
| 設計段階のリスク評価 | FMEA |
| 顧客クレーム対応 | 8D |
| 多数の問題から優先課題を特定 | パレート分析 |
| プロセスの継続的改善 | DMAIC |
AIを活用した効率化
従来のRCA手法には、以下の課題があった。
- 時間がかかる:特にFTAやFMEAは数日〜数週間
- 専門知識が必要:統計やシステム工学の知識
- 属人的:ファシリテーターのスキルに依存
- 管理が複雑:分岐や関連性の整理が困難
こうした課題を解決するのが、AI支援ツールである。
📱 WhyTrace Connect - AIなぜなぜ分析ツール
業種と問題を入力するだけで、AIが自動的になぜなぜ分析ツリーを生成。根本原因の特定から対策提案まで、通常1〜3分で完了する。
- 10業種対応の専門フレームワーク
- 複数原因の分岐を自動で整理
- 対策案の自動生成機能
- FTA的な網羅性をシンプルなUIで実現
まとめ
根本原因分析(RCA)は、問題の再発を防ぐための必須スキルである。
7つの手法はそれぞれ特徴が異なり、状況に応じて使い分けることが重要だ。
- シンプルな問題:なぜなぜ分析、特性要因図
- 複雑なシステム:FTA、FMEA
- 顧客対応:8D
- 継続的改善:DMAIC
- 優先順位付け:パレート分析
1つの手法に固執せず、問題の性質に合わせて柔軟に選択し、必要に応じて複数の手法を組み合わせることで、より効果的な根本原因分析が可能になる。