建設現場で働く人間にとって、夏場の暑さは命取りになる。しかも2025年6月からは「対策をやっていなかった」では済まなくなった。労働安全衛生規則の改正により、熱中症対策が罰則付きで義務化されたからだ。
この記事では、改正の具体的な内容と、建設業の現場が今すぐ着手すべき5つの措置を解説する。熱中症対策以外の改正項目も含めた労安法改正2026年の義務化事項も併せて確認しておきたい。「なんとなく対策している」という状態から、法的要件を満たした管理体制に移行するための実践的な内容を整理した。
建設業における熱中症の実態:義務化の背景
なぜ今、義務化なのか。まず数字を確認しておきたい。
厚生労働省が2025年に公表した確定値によると、2024年(令和6年)の職場における熱中症による死傷者数は1,257人で、統計が残る中で過去最多を記録した。そのうち死亡者は31人で、前年(2023年:22人)から大幅に増加した。
業種別で見ると、建設業は特に深刻だ。
| 項目 | 2024年(令和6年)実績 |
|---|---|
| 全業種の死傷者数 | 1,257人(過去最多) |
| 建設業の死傷者数 | 228人 |
| 全死亡者数 | 31人 |
| うち建設業の死亡者数 | 10人(全業種で最多) |
(出典:厚生労働省「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」)
死亡者数で建設業は全業種トップとなっている。屋外作業が中心で日差しや輻射熱を避けられない環境、重装備による体温上昇、工期プレッシャーによる休憩取得の困難さ——建設現場には熱中症リスクを高める要因が重なっている。
この現状を受け、厚生労働省は労働安全衛生規則を改正し、2025年6月1日から施行した。
2025年6月施行:法改正の3つのポイント
改正労働安全衛生規則で事業者に新たに義務付けられたのは、主に以下の3点だ。
ポイント1:報告体制の整備
WBGT値(暑さ指数)が28度以上、または気温が31度以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を超える作業が見込まれる場合、熱中症の自覚症状がある作業者や、異変に気づいた者が速やかに報告できる体制を事業場ごとに整備しなければならない。報告先の担当者や連絡先を明文化し、誰でもアクセスできる状態にしておくことが求められる。
ポイント2:応急措置手順の作成
熱中症が疑われる症状が現れた際に、どのような手順で対応するかを事前に定めておくことが義務となった。作業から離脱させる判断基準、身体の冷却方法、医師への受診要否の判断、搬送先の連絡先——これらを手順書として文書化し、現場に備えることが求められる。
ポイント3:関係者への周知
整備した報告体制と手順書は、現場で働く全ての関係者に周知させることが義務だ。「作成したが知らなかった」という状況は対策として認められない。作業員への説明、掲示による告知など、確実に内容が伝わる方法を選択する必要がある。
対策を怠った場合の罰則は、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金だ。中小企業・一人親方も対象となるため、規模を問わず対応が必要になる。
(出典:厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について(令和7年6月1日施行)」)
建設業が取るべき5つの具体的措置
法改正の要件を満たしながら、実際に現場で機能する対策を5つの柱に整理した。
措置1:WBGT(暑さ指数)の測定と管理体制の構築
熱中症対策の出発点は、作業環境の正確な把握だ。WBGTとは湿度・日射・気温の3要素を組み合わせて算出する暑さの指標で、気温だけでは測れないリスクを数値化できる。
WBGT値の目安と推奨対応は以下の通りだ。
| WBGT値 | リスクレベル | 推奨対応 |
|---|---|---|
| 28度以上 | 危険 | 運動・作業は原則中止。義務化対象ラインを超えた状態 |
| 25〜28度 | 厳重警戒 | 激しい作業を避け、頻繁な休憩を取る |
| 21〜25度 | 警戒 | 積極的に水分補給。体調変化に注意する |
| 21度未満 | 注意 | 通常の注意事項を継続する |
(参考:環境省「熱中症予防情報サイト」)
現場への設置が難しい場合は、環境省が無償提供するWBGT電子情報提供サービスを活用する方法もある。ただし、日陰と直射日光下では値が大きく異なるため、実際の作業場所に近い環境での測定が望ましい。
措置2:クーリングスペースの設置と休憩体制の整備
法改正の趣旨は「熱中症が疑われる者を早期に見つけ、迅速に対処する」ことにある。そのためには、作業員が気軽に立ち寄れる冷却スペースが現場に必要だ。
実際に現場で機能している対策の例を挙げると、ポータブルクーラーとビニールカーテンを組み合わせた簡易冷却室の設置、冷却タオルや経口補水液を常備したサポートキットの配備などがある。完全な空調設備がなくても、ミストファンと日陰の組み合わせでも効果を得られる。
重要なのは「設置する」ことではなく、「使わせる文化をつくる」ことだ。休憩を取りにくい現場の雰囲気を変えることが、対策の実効性を左右する。
措置3:報告・緊急対応手順の文書化と訓練
法改正で特に強調されているのが手順書の作成と周知だ。以下のような内容を盛り込んだ手順書を作成し、現場の目につく場所に掲示する。
- 熱中症が疑われる症状(めまい・大量発汗・吐き気・意識障害など)の判断基準
- 発見者がまず取るべき行動(日陰・冷所への移動、意識確認)
- 身体冷却の手順(頸部・脇・鼠径部に保冷剤を当てる)
- 報告先の担当者名と連絡先(複数のバックアップを含む)
- 救急搬送が必要な症状の判断基準
- 最寄りの救急病院の連絡先と住所
手順書を作成したら、朝礼や安全教育の場で内容を共有し、実際に手順を口頭確認する訓練を定期的に行うことで、形骸化を防げる。
措置4:水分・塩分補給の習慣化と健康管理
熱中症予防の基本は水分と塩分の補給だ。厚生労働省は、高温環境下での作業では1時間あたり200〜400mlの水分補給が目安としている。建設現場での実践ポイントは以下の通りだ。
- 作業前・作業中(1時間ごとを目安)・作業後の3段階で補給を習慣化する
- 自動販売機やクーラーボックスを作業エリアの近くに配備し、取りに行く手間を減らす
- 経口補水液や塩タブレットを常備し、塩分補給も忘れない
- 朝礼時に体調確認を行い、睡眠不足・飲酒翌日・体調不良の者には軽作業への配置転換を検討する
特に作業開始から慣れていない時期(夏の初め)や、気温が急上昇する時期は要注意だ。体が暑さに慣れる「暑熱順化」には1〜2週間かかるため、この期間は特に慎重な管理が必要になる。
措置5:教育・周知体制の整備と記録管理
義務化の要件を満たすには、対策を実施するだけでなく、周知・記録の体制を整えることが不可欠だ。特に以下の記録を整備しておくと、行政指導や労働基準監督署の調査に対応できる。
- WBGT測定記録(日付・時刻・測定値・対応内容)
- 安全教育の実施記録(日付・参加者・内容)
- 手順書の改訂履歴と周知記録
- 作業員の健康確認チェックシート
記録は紙でも電子でも構わないが、後から確認しやすい形式で保管することが重要だ。
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法改正の要件を効率よく満たすために、AIやデジタルツールの活用が広がっている。従来の「紙の記録」や「管理者の目視確認」には限界があり、大人数が動く建設現場では見落としも発生しやすかった。
AIを活用した管理の主な効果は以下の通りだ。
- リアルタイムのWBGT管理:センサーと連携したシステムが現場のWBGT値を自動記録し、基準値を超えた際にアラートで知らせる
- 作業時間の自動集計:高温環境下での作業時間を個人ごとに追跡し、義務化の対象ラインを超えた場合に管理者へ通知する
- 書類作成の自動化:リスクアセスメント・KY表・手順書をAIが自動生成し、担当者の作業負担を大幅に削減する
特に安全書類の作成は、現場の安全管理担当者にとって大きな負担だ。法改正への対応として新たに必要になる手順書・周知記録・報告体制の文書化も、AIを使えば大幅に時間を短縮できる。
帝国データバンクの調査では、熱中症対策の義務化を認知している企業は55.2%にとどまる一方、建設業での認知度は約8割と全業種を上回っている。認知はしているが「具体的にどう対応するか」で迷っている現場は多い。AIツールはその「具体化」を支援する手段として注目されている。
(出典:帝国データバンク「熱中症対策の義務化、企業の55.2%が認知 建設業で認知度高く」)
まとめ:義務化を「最低ライン」ではなく「出発点」として
2025年6月から施行された熱中症対策の義務化は、建設業界にとって対岸の火事ではない。2024年の死亡者数で建設業は全業種トップとなっており、対策の遅れが命に直結する。
今回解説した5つの措置を改めて整理する。
- 措置1:WBGTの測定と管理体制の構築
- 措置2:クーリングスペースの設置と休憩体制の整備
- 措置3:報告・緊急対応手順の文書化と訓練
- 措置4:水分・塩分補給の習慣化と健康管理
- 措置5:教育・周知体制の整備と記録管理
罰則(6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)を避けることが目的ではない。毎年繰り返される熱中症死亡事故を現場からなくすことが、これらの措置の本来の目的だ。
義務化の要件を満たしながら、現場の実態に合った形で継続できる対策を今から構築しておきたい。
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